【川崎事件】岩崎容疑者はなぜ伯父夫妻を襲わなかったのか

もっと根深い闇があったのだろうか…
井戸 まさえ プロフィール

セルフネグレクト対策を

「セルフネグレクト」ということばを聞いたことがあるだろうか?

たとえば、ゴミ屋敷。たとえば、孤独死。たとえば、騒音トラブル。ふとしたきっかけから、自らの生活や健康状況が悪化しているにもかかわらず、周囲に助けを求めない。

「自分を大切にしたい」という要求をネグレクト(無視)する状態で、「自己放任」とも言われる。

厄介なのはその「自分自身をネグレクトするという行為」がは個人の問題にとどまらず、ゴミ屋敷でもわかるように、地域環境を乱したり、不安を持たせる存在にさえなることがある、ということなのだ。

 

川崎登戸の事件で言えば岩崎容疑者自身も、行政に相談しながらもアドバイス以上の支援を断った伯父夫妻も「自分にダメージを与える」といった意味では広義の「セルフネグレクト」状態だったと言えよう。

子どもの頃は、岩崎容疑者が遠慮しながら生活していただろう伯父夫妻との関係も、時が経つにつれいつしか立場が逆転し、まるで小さな帝国の中で岩崎容疑者が君臨、支配する形に変容していただろう。

伯父夫妻は問題が起きぬよう、言われた通りに食事を用意し、お金を渡していた状況が容易に想像できる。この関係には愛や信頼関係がベースにあるわけではない。あるのは恐怖と諦めだ。でもそこから抜け出せない。破綻することは見えていても、だ。

子どもの頃の虐待や、ネグレクトを受けた経験、また大人になってからの地域からの孤立等の経験がセルフネグレクトに陥る要因ともなる。

だからこそ、「セルフネグレクト」の対策としては地域事情に詳しい保健師が最も必要とされ、また活躍する分野でもある。前述したように義務教育を離れて以降の人々への支援は極端に難しくなる。介入も難しい。

だからこそ、国主導で、市民に最も近い市町村等に早急に保健師を中心とした医療や福祉の専門家のチームを作り、若年、早期の段階で適切な支援や治療ができる体制を作っていかなければならないと思う。

1兆円を出してステルス機を買う余裕があるならば、その数機分を「セルフネグレクト対策」に予算をつけたほうが個人も社会も安定する。確実に、だ。

川崎登戸の事件で犠牲になったお二人のご冥福と、お怪我を負われた方々のご回復を心からお祈り申し上げます。