日本が人工妊娠中絶の「後進国」であるという悲しい事実

Session-22✖️現代ビジネス
荻上 チキ, 遠見 才希子, 染矢 明日香

日本における中絶の方法

チキ まず遠見さん、日本ではいま現在、どのような中絶手術がメジャーなんでしょうか?

遠見 多くの施設では、いわゆる「掻爬術(そうはじゅつ)」という手術、もしくはこの掻爬術と電動吸引法という術法を併用した手法がとられています。

チキ 「掻爬術」とはどういったものでしょうか?

遠見 「掻爬」ときいて、おそらく「子宮の中を掻き出す手術なんじゃないか」とイメージされた方がいると思うんですが、手術の手順としては、まず子宮の入口というか出口、頸管を開く処置が必要になります。この処置は経腟分娩の経験のある方については不要のこともあるんですが、基本的にはその処置をした後に、金属製の器具を使って妊娠の組織を子宮の中から外に出す、ということになります。

チキ 当然ながら、それにはかなりの痛みが伴うのでは、と想像するわけですけれども、そのあたりはどうなんでしょうか?

遠見 今は多くの施設で全身麻酔のような形で眠らせて手術をしているので、手術中は痛みを感じることはほぼないと説明していると思います。

チキ 術後はいかがですか?

遠見 個人差はあるのですが、術後も特に痛みを感じなかったという方がいる一方で、子宮が収縮する痛みを感じたという方もいらっしゃいます。

チキ もうひとつの「電動吸引法」、こちらはどういったものでしょうか。

遠見 こちらは、金属製の吸引管をボトルにチューブでつないで、中の組織を吸い出す、という方法です。ただ、この吸引法を使っても子宮の中に取り残しが生じることがあり、だから先ほどの掻爬法を――「掻き出す」という言い方が適切かはわかりませんが――併せて用いて確認をするというところがあります。

チキ なるほど。ではこの電動吸引法を掻爬法と併せた手術法、あるいは掻爬法単独での中絶方法が日本では多いわけですね?

遠見 あとは2015年に、「手動真空吸引法」という方法に必要な器具がようやく国内に入ってきましたので、そちらを使っている施設も多いと思います。

チキ それはどういった方法ですか?

遠見 これはWHOが推奨する手法のひとつで、薬剤での中絶では対応できない場合にとられている方法です。柔らかめのプラスチック製の管を子宮の中に入れて、子宮の中を真空の状態にして吸引すると、きれいに組織が吸引できるというもので、電気の供給がない発展途上国であるとか、衛生状態があまり良くないところでも安全に手術ができるというものです。

チキ 今の方法はWHOも推奨しているとのことですが、本来は薬剤などが使えない場合の代替手段として推奨されているという意味合いでしたよね? 日本では薬剤が使われているケースはないんですか?

遠見 ない、ですね。認可されていませんから。

 

それぞれの手術のリスク

チキ では、薬の話は後でもう少し詳しく伺うとして、いま挙げていただいたそれぞれの方法の問題点はどういったところにあるんでしょうか?

遠見 掻爬術のリスクとしては、子宮の内膜、正常なところも傷をつけてしまうことがあります。子宮の中の傷口が癒着して、不妊症の一因になってしまったりとか。

あとは子宮内を目視できない状態で金属製の器具を操作しますので、子宮穿孔といって、その器具で穴を開けてしまうことによる合併症も、きわめて稀ではありますけど報告されています。手動真空吸引法だと、そこまで出し入れの操作はしないんですが、掻爬法とか、電動吸引法だと複数回、器具を出し入れすることはありますので。

チキ 手探りですものね。

遠見 あと、頸管拡張の出口を広げる処置のときにも、そのリスクはあるとは言われています。私自身、流産の手術も中絶の手術もこれまでやってきているのですが、医師として駆け出しの頃は、とにかく「合併症を起こさないように出血を少なく、短時間で手技を終えなきゃいけない」というプレッシャーで頭がいっぱいでした。

もともと「中絶をする方の気持ちに寄り添いたい」という思いもあって産婦人科医になったはずなのに、実際になってみるともう流れ作業のように、とにかく短時間で速く終えなきゃいけないんです。だからあの頃は自分自身も寄り添ったケアが出来ていなかったと、いま振り返って反省しています。

チキ ということは、これは医師の方にも負担がある方法、ということになるわけですよね?

遠見 そうですね。医師を一種の「職人」としてみなし、手術のための技術を磨く医師や、翻って技術そのものを尊重する考え方は医療の世界にも根強くあります。ただ、いまは手動真空吸引が本当に簡易的にできるようになっていますし、先ほど言ったリスクに関してもこちらの方法のほうが低いことを示すエビデンスもあります。手動真空吸引に切り替えるべきという勧告があるのは当然のことだと思います。