日本が人工妊娠中絶の「後進国」であるという悲しい事実

Session-22✖️現代ビジネス
荻上 チキ, 遠見 才希子, 染矢 明日香

病院によって中絶できる基準が違う

遠見 現在の制度にも色々な問題点があると思うんですね。たとえば、胎児異常による中絶は、この法律上は認められていません。

胎児異常というと、おそらく出生前診断などを思い浮かべる方が多いかと思います。その結果にもとづく中絶というのは、直接的には認められていないんですね。しかし実際には母体の健康被害ということにつなげて、届け出を書いて提出することで実施されている状況です。

また、中絶をするにあたっては本人の意思だけでなく夫の同意が必要です。なので、たとえばですけど、夫からDVを受けて妊娠した場合でも、夫の同意が必要ということになります。

チキ それに関しては「妊婦本人が自分の身体、これからの人生についての自己決定権がないじゃないか?」という批判がずっとあったわけですけれども、まだ変わってないというわけですね?

遠見 そうですね。あと、未成年が中絶を行う際には保護者の同意は法律上は必要ではないのですが、実際の運用では病院やクリニックの考え方しだいのところがあり、多くの施設で保護者の同意を求めていたりもします。保護者のサインがなくても手術をしてくれるところも中にはあるのですが。

チキ 法的な線引きとは別に、やってはいけないことを「事実上許されているのから」と行っているところもあれば、法的な線引き以上に厳格に運用するところもあると。

〔PHOTO〕iStock

遠見 そうですね。結婚していないパートナーを相手にした妊娠でも、相手のサインを要求する施設もあると聞いています。

チキ でも、性的暴行による妊娠ではなくても、たとえば売買春であるとかで予期せぬ妊娠をしてしまい、相手とは連絡を取りようがないケースだって当然あるわけですよね? そうしたケースは、法では想定はされていないということですか?

遠見 そうですね。法的には、婚姻関係のある配偶者のサインが必要であるということです。

 

リスク評価の尺度への違和感

チキ これ以外にも中絶に関する条件というのはあるんでしょうか? たとえば先ほど読んだ教科書には、「一定の期間」云々という記述もありましたが。

遠見 中絶を行えるのは、妊娠21週6日までです。「意外に期間が長いじゃないか」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、いまの日本では妊娠12週未満までに行う中絶のことを「初期中絶」と呼んでおり、麻酔をかけて眠った状態での中絶手術を行います。

12週を越えると、「中期中絶」となり、人工的に陣痛を起こし、出産と同じような形で分娩させ中絶する方法を多くの医療施設が採用しています。

チキ その形式の違いというのは、何によって分けられているのでしょうか?

遠見 12週を超えた場合は手術すると出血のリスクが大きくなることなどから、中絶ではなく分娩に切り替える医師・施設が多いのです。ただ、他の先進国ではそもそも手術によらない経口中絶薬による中絶が主流になっていますから、日本も薬剤による中絶の解禁を本当に考えていかなければいけない時期に来ていると思います。

チキ リスク評価をする際の尺度そのものがおかしいということですね?

遠見 その可能性があります。

染矢 法律上は妊娠22週未満までは中絶できることになっているのに、実際に22週近くなって中絶を希望すると、医師から「リスクに対応できない」という理由で断られてしまうことが往々にしてある、ということは私も聞きます。

チキ つまり、「できる」ということと、それを「医師に受けてもらえる」ということの間にギャップがあるということですね。染矢さん、この法的な位置づけなどについては、いろんな課題があるかと思いますが、どんな法改正や問題提起が必要だとお感じになりますか?

染矢 まず配偶者の同意を得なければ中絶できないという項目は、出産当事者である女性自身の自己決定権を重視する立場からは検討の必要があると考えています。やはりDVによる妊娠などは実際にありますし、パートナーとの関係性も人によってまったく違うので、必ずしも必要な項目ではないのでは、と。

チキ この条件を未だに継続していること自体が時代錯誤であるし、WHOなどから受けている勧告ともズレているわけですね。次のパートでは、その勧告で転換を求められている中絶の具体的な方法について考えていきましょう。