マキャベリが語る「軍事・戦争」

【5分de名著】マキャベリ『君主論』全訳注:佐々木毅②
講談社学術文庫 プロフィール

賢明な君主の心得とは(第一四章続き)

心の訓練についてみるに、君主は歴史を読み、その中で偉人達の行動を考察しなければならず、戦争において彼らがどのように行動したかを知り、勝因と敗因とを検討して後者を回避したり前者を模倣したりできなければならない。そしてこれら偉人達も彼ら以前に称讃と栄光とを体現していた人物を模倣し、その者の立ち居振舞を座右の銘としたのであった。

 

例えば、アレクサンドロスはアキレウスを、カエサルはアレクサンドロスを、スキピオ2はキュロス3をそれぞれ模倣した。クセノフォンによって書かれたキュロス伝を読む人は、スキピオがその模倣によっていかに名誉を獲得したか、彼の純潔、温かさ、慈愛、寛大さがクセノフォンによって描かれたキュロスの行為にいかに一致しているか、分かるであろう。

賢明な君主はこのような生活態度を守り、平時にあっても決して安逸に流れることなく努力を傾けてこれらを活用し、逆境にあってもそれを活用できるようにすべきである。このようにしてこそ運命が変転した時にも、それに抵抗する準備が整うことになる。

(1)Philopoimēn (BC253〜BC182) ギリシア・アカイア同盟の将軍。アルカディア生まれで、軍制を改革し、スパルタを破る。
(2)Publius Scipio (BC236〜BC184) 古代ローマの名門貴族。第二次ポエニ戦争でカルタゴ支配下のイベリア半島を征服し、ザマの会戦でハンニバルをうち破る。カルタゴを屈服させアフリカヌスの尊称をうける。
(3)Kyros (BC600頃〜BC529) キュロス大王。アカイメネス朝ペルシアの王、メディア王に仕えるが、後に独立し同国を滅ぼす。エジプトを除くオリエント世界を征服し、ペルシア帝国の基礎を築く。
[訳者解説]
軍事・戦争問題こそ君主の唯一、最大の関心事となす本章の主張は、マキアヴェッリと伝統的君主論(人文主義のそれを含む)との相違をなによりもはっきりと示している。そしてこの結果が単に偶然的なものではなく、彼の政治観に深く根をおろしていることは改めて指摘するまでもない。本章の主張はまたルネサンス期イタリア君主に対する激しい批判でもある。
イタリアの政治的破滅を招いた主たる原因の一つが君主の無能力にある、というのは一貫した彼の主張であり、軍事的無関心・無能力はそれを端的に実証するものであった。
『君主論』は決してイタリア・ルネサンスを反映する典型的な文書ではなく、まさにある意味で革命的で、現実批判的なマニフェストだったのである。

著・ニッッロ・マキアヴェッリ 全訳注・佐々木毅 『君主論』より

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