マキャベリが語る「軍事・戦争」

【5分de名著】マキャベリ『君主論』全訳注:佐々木毅②
講談社学術文庫 プロフィール

平時においてこそ軍事が重要(第一四章続き)

このように君主は戦争の訓練を決して念頭から離してはならず、戦時よりも平時において訓練に励まなければならない。この訓練には二つの方式があり、一方は行動を伴い、他方は精神に関わるものである。前者に関してみるに、軍隊を良く組織して訓練するほか、常に狩猟を行って身体を労苦に慣れさせなければならない。

 

またこれによってその地方の地形を知り、山がどのように起伏し、谷がどのような形をとり、平原がどのように横たわっているかを認識し、川や沼の性格を理解しなければならず、君主はこれらの事柄に非常な注意を注がなければならない。

こうした認識は二つの点で有益である。第一に、自分の国をよく知るよう努力することによって、それをよりよく防衛することを学ぶことができる。さらに、その土地の観察と体験によって他の土地のことを考える必要が起こった時に、容易に理解することができるようになる。

それというのも、トスカーナ地方の丘陵や谷、平野、河川、沼沢などは、他の地域のそれらとある種の類似性をもっているからで、したがって、ある地域の地形を心得ていると、容易に他の地域の姿を把握することができる。

こうした知識を欠いた君主は軍隊の指揮官として持たなければならない第一の要件を欠くことになる。何故ならば、この知識こそ、敵を発見し、宿営地を選び、軍隊を導き、合戦を組織し、有利に陣取ることを可能にするからである。

アカイアの君主フィロポイメン1は文筆家たちによって称讃されてきたが、その中には平和な時にあっても戦争の方法以外は考えなかったという点が含まれている。彼は、友人たちと田舎にいく時も、しばしば立ち止まり彼らと次のようなことを論じ合ったという。

すなわち、もし敵があの丘に現われ、われわれが味方の軍勢を率いてここにあるとすれば、どちらが有利であろうか、どのようにしたら、陣形を崩さないで敵を攻撃できるか、味方が撤退しようとする場合、どのように行動すべきか、敵が退却する時、どのように追撃すべきか、と。

彼は道すがら、戦闘に際して起こりうるあらゆる場合を彼らに提起し、彼らの見解に耳を傾け、自説を述べ、理由をあげて確認するのであった。このように絶えず考え続けた結果、軍勢を指揮していて、彼が対応できないような不意の出来事に襲われることはなかったのである。