『陽の鳥』 著者:樹林伸

希代のヒットメーカーが挑むメディカル・エンタテインメントを連続公開 VOL.1

 顕微鏡から目を外した森彦の真剣なまなざしに、名嘉城はくすっと小さく笑って、
「そんな大事な話じゃないんです。ほんとにつまらない質問なんです」
「つまらない質問?」

「はい。『P因子』の『P』の意味です。まだこれだけは聞いてなかった」
「そうだったか」
「ええ。いつのまにか先生はそう呼んでましたから、僕はまだ教えてもらってません」
「そうか、それは悪かったな」

 森彦は、得意げに向き直って、
「きみは不死鳥の伝説を知ってるか」 と、問いかけた。
「ええ、なんとなくですが。永遠に生きる、火の鳥ってやつですよね。たしか、寿命が尽きそうになると自分から炎に飛び込んで焼け死んで・・・」

「その燃えつきたの中から復活する・・・と、ローマの歴史家タキトゥスが伝えてる」
「そういうことか。『灰』を『胚』にかけて・・・」

 答えを直感したらしい名嘉城に先回りして、森彦は言った。

「そういうことだ。『P因子』の『P』は、不死鳥 ---フェニックスの頭文字だよ」

陽の鳥 著者:樹林伸
(講談社刊)本文7~17ページより抜粋

* * *


『陽の鳥』
著者:樹林伸
定価 1,680円(税込)⇒本を購入する(AMAZON)

●樹林伸(きばやし・しん)
1962年東京生まれ。亜樹直、天樹征丸など多くのペンネームを持ち、『金田一少年の事件簿』『サイコメトラーEIJI』『神の雫』など数多くのヒット作を手がける漫画原作者。 その才能はコミック原作だけにとどまらず、『東京ゲンジ物語』(講談社文庫)『リインカーネイション』(光文社)『ビット・トレーダー』(幻冬舎)『クラウド』(幻冬舎)など小説も多数。また、『「でっけえ歌舞伎」入門』(講談社+α新書)を上梓し、新橋演舞場の公演では市川海老蔵のために新作『石川五右衛門』を書き下ろした。