通常は入れない基地の中にも、基地で働く知人を通じて特別に入れてもらった。

「もう、とにかく衝撃でした。まるでアメリカの風景。映画のセットのようにゴミひとつ落ちておらず、とてもきれい。モンパチの上江洌清作さんにもお会いして話を聞いたのですが、彼らの曲に、沖縄民謡を替え歌にした『安里屋ユンタク』というものがあるんです。そこでは『カナアーミ コエタラ カリフォルニアヨ』という歌詞で歌っているんですけど、基地の中はまさにカリフォルニア。とても沖縄とは思えないくらい、完全に別世界でした」

日本から見た基地の中。中に入ると、そこはまるでカリフォルニアだった 写真提供/平田研也

モンパチが高校時代から通っていたライブハウス「HUMAN STAGE」にも連れて行ってもらい、彼らが慕っているオーナーの山田義和氏にも取材した。

「MONGOL800は武道館を満員にするほどのバンドです。でも、ライブハウスツアーの始まりは必ずこのHUMAN STAGE。それくらい、自分たちの原点を大切にしているんです」

作品はドラマ化を目指していたが、実際には映画という形で世に出ることになった。クランクアップのライブシーン撮影はHUMAN STAGEで行われている。

「私はあくまでも脚本家なので、HUMAN STAGEをイメージしつつもロケ地を指定はせず、脚本では単に『ライブハウス』と書いていました。でも監督はちゃんとHUMAN STAGEで撮影をしてくれて嬉しかったですね」

平田さんが取材に行ったときに撮影したライブハウス「HUMAN STAGE」。沖縄のバンドの多くがこのライブハウスから飛び立った. 写真提供/平田研也

フェンス越しで国境を越える恋

映画の中には、基地内の売店(PX)で売っている人形「SAYONARA DOLL」が登場する場面がある。モンパチが2016年に作った楽曲のタイトルにもなっており、歌詞には「まるでロミオとジュリエット 許されない恋」と出てくる。フェンスの中と外で国境を越えているほのかな恋に、物語の中で起きる事故により、「許されない恋」の意味が深まってしまう。

「『SAYONARA DOLL』は胴体が巻き物になっているこけしで、基地の中で売られています。沖縄を離れる米兵が、知り合った日本の人たちにお別れのメッセージを書いてもらって持ち帰るんです。だから、沖縄の人でもその存在を知っている人は少ないそうです。

このこけしが出てくるフェンス越しの交流も実話をベースにしています。基地の中にいるアメリカ人と、外に住む日本人がフェンス越しに挨拶をしていたと聞いて。ただ、映画のように男子高校生とアメリカ人の女の子の恋愛になるかというと……。日本人の女の子と米兵が付き合うケースはよくあるそうですが、逆はあまりないみたいですね」

©2019「小さな恋のうた」制作委員会
平田さんが取材時に基地内で購入した「サヨナラドール」写真提供/平田研也

「基地のある日常」が当然

平田さんは、取材していくほどに、沖縄の人たちにとって「基地がある日常」が普通のことなんだと感じるようになった。平田さん自身は基地や軍用機の存在に驚くのに、なにも反応しない。そのこと自体が驚きだった。だからこそ映画でも、「当たり前に見える光景を当たり前に描いた」と平田氏はいう。

「沖縄で行われた試写で完成した映画を見た地元の人たちは、正直ちょっとざわついていました。この映画で政治的なことを描いているわけでもジャッジしているわけでもないし、フラットにありのままを描いているだけなんですが、『大分踏み込んだね』ともいわれました。基地という敏感な場所に、東京に住むよそ者が堂々と触れていたからでしょうか。地元の人にとって基地の存在は、『当たり前』ではあるけれど、語弊を恐れずにいうと、日頃からあえて意識をせず、触れないようにしているのかもしれないとも感じました」

モンパチの上江洌清作さんからも「沖縄と本土の人の感覚の違いだろうね」といわれたという。

「青い空と海」といった観光地としての沖縄ではなく、沖縄の人じゃないからこそ描けた「リアルな沖縄」がここにある。山城さんが「平田さんは沖縄を知らないからいいんです」といった本当の理由が、映像から、物語から伝わってきた。

映画『小さな恋のうた
監督:橋本光二郎 
脚本:平田研也
配給:東映 ©2019「小さな恋のうた」製作委員会
沖縄の小さな町。日本とアメリカ、フェンスで隔てられた「二つの国」が存在する場所。そこでは、ある高校生バンドがオリジナルソングを歌い、人気を集めていた。しかしその実力でプロデビューがきまったその日、喜びの絶頂の彼らをある不幸が襲い、バンドの運命が変わった。バンドの継続は不可能だと絶望した中、1曲のデモテープが彼らを動かす。フェンスの向こうに友の「想い」を届けたい。そう考えた彼らがとった行動とは。全国公開中。
小説『小さな恋のうた
平田研也さんが脚本のあとに自ら小説化。「脚本家は通常撮影現場にほぼ行きませんが、小説を書くことになったので、実は撮影隊に帯同させてもらったんです。自分がイメージした物語が具現化されているのを見ながら、脚本には書ききれなかった細かいことも文章に入れていきました」(平田さん)