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高杉良が「最後の小説」のモデルに選んだ、伝説の経営者の生き様

彼の人柄に惚れこんで…

伝説の営業マンから経営者へ

―企業小説の第一人者である高杉さんの最新作は、ベンチャー企業「イーパーセル」の経営者・北野譲治氏がモデルです。

「イーパーセル」は、安全にデータを送ることができる「電子宅配便」の仕組みを確立した企業。これまでメーカーや銀行など、日本の伝統企業を題材にしてきた高杉さんが、80歳にしてベンチャーに挑まれたのは驚きでした。

実は、今までIT業界は意図的に避けてきたんですよ。自分がよく知らない世界だから、なんとなく胡散臭いな、と思う部分もあって。

そんなイメージを根底から覆したのが、北野さんとの出会いでした。たまたま新聞に掲載されていた彼のインタビュー記事を読んだらとても面白く、すぐに連絡をして、会わせてもらいました。

実際に話してみると、実直な人柄にますます惹きこまれ、「あなたを題材に小説を書かせて欲しい」と伝えました。

 

北野さんも、最初は「信じられない」という反応でしたが、最終的には喜んで協力してくれました。ただ、いまも成長途上の企業を扱うセンシティブなテーマのため、主人公の北野譲治をはじめ、実名を使用する人物と、仮名で登場させる人物とを選りわけました。

―北野は早稲田大学理工学部を卒業したのち、損害保険会社で出来高払いの契約社員の道を選びとり、持ち味の人間性を武器に叩き上げてきた「伝説の営業マン」。その後、自ら保険代理店を立ち上げて順風満帆の人生を送っていた彼に、大きな転機が訪れます。

北野は、学生時代の友人から「すごい人物だから」と紹介され、イーパーセルの創業者である財津正明(仮名)という人物に出会います。同社はアメリカで大きな評価を獲得し、日本進出のタイミングを迎えていました。

北野の行動力や人間性に惚れ込んだ財津は、2日連続で北野をホテルの高級ディナーへと誘い、「技術で世界を変えよう」と延々と口説き続けます。しかも、2日目の晩は、乗り気ではない北野を無理やり駅に引き止めて、終電まで2時間もまくしたてる。これ、実話ですよ(笑)。

―財津の熱意や、ITという未知の領域への強い興味もあり、北野はイーパーセルへの入社を決断します。てっきり、このまま北野と財津の両輪で日本での事業がスタートすると思いきや……。

財津の口ぶりからして、「三顧の礼」をもって経営のパートナーとして迎えられると思い込んでいた北野ですが、実際に入社してみると、3人も上司がいる「部長待遇」だった。しかも、年俸も社長時代の半分にも満たないことが判明します。あわてて財津に抗議しても、取り付く島もない。

順調だった自分の会社を離れてまで臨んだ新天地で不意打ちを食らい、さすがの北野もうろたえます。しかし、ここで諦めないのが並の人物とは違うところ。北野は退路を絶ってイーパーセルを支えることを決断します。