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カリスマ書店員がドハマりした「傑作シリーズ小説」を一挙ご紹介

新井見枝香さんの人生最高の10冊

タブーに挑戦したミステリー作品

選んだのは、ミステリーのシリーズものが多いですね。

書店員としてシリーズや続編を売るのは、最初の巻から読んでいるお客さんじゃないとなかなか手にとってもらえないので、難しいのですが、10巻、20巻と読み続けていくうちに、自分のなかで思い出深い物語として、残っていく魅力があります。

森博嗣さんの『すべてがFになる』は、孤島を舞台にしたミステリー小説。探偵役の理系の大学助教授、犀川創平と大学生の西之園萌絵が主人公の「S&M」シリーズの第一作です。

犀川はいわゆる奇人ですが、卓越した洞察力を駆使して謎を解いていきます。私は文系脳なので、理系の犀川が物語を理論的に解決していくのが新鮮でした。物事の対処の仕方がすごく合理的で、その考え方に影響を受けましたね。

占星術殺人事件』もシリーズものの第一作。探偵・御手洗潔が主人公のミステリーです。作者の島田荘司さんは推理小説の巨匠と呼ばれていますが、その理由はこの作品を読めば分かります。

 

今のミステリーはどうしても小粒と言いますか、話の規模が小さい作品が多いのですが、島田さんのミステリー、とりわけ本シリーズは思わず笑っちゃうくらいの奇想天外なトリックをはじめ、スケールの大きさに圧倒されるんです。

また、巻を追うごとに、メインキャラクターの人間的な成長を実感できることも面白いですね。実在の知り合いみたいな感覚になっていくんです。読者にそこまで思わせるのは、やはり島田さんの登場人物描写に細かいリアリティがあるからだと思います。

神麻嗣子の超能力事件簿』シリーズは作品内に超能力を使えるエスパーが登場するミステリー。緻密で難解な事実の積み重ねで成立するはずのミステリーのなかで、「超能力」は禁じ手だと思うんですよ。何でもありになっちゃいますからね。

でもこの作品はあえてそのタブーに挑戦しています。事件に超能力がどのように使われたのかなど、その設定のおかげで、謎解きに深みが出て、正統派の本格ミステリーとして読めます。あまり注目されてないシリーズなのが、自分としては悔しいですね。

知る人ぞ知る安定感抜群の作家

『温泉殺人事件』シリーズの吉村達也さんもあまり名前が挙がらない方です。残念ながら、7年前にお亡くなりになっているのですが、絶対に期待を裏切らないミステリーを量産する作家でした。

寡作の大作家であったり、世間の注目が集まっている社会問題を作品のテーマにしている人が話題にはなりがちですが、私はこういう人のほうが作家としては強いと思います。恐らく、自分の中で作る工程がしっかり決まっているのでしょう。各地の温泉で推理ドラマが展開する物語のパターンは作品ごとに大きく変わらないのですが、安心して読める良作ばかりです。

 

吉村さんはミステリーだけではなく、ホラー作品も書いていたりします。固定ファンの需要に応えつつもチャレンジングな作品は秀逸です。

日出処の天子』は歴史ドラマで、主人公の厩戸皇子(聖徳太子)が、さまざまな才能に恵まれながらも、本当に欲しい「愛」を手に入れられなかったことが印象に残っています。

稀有な才能、飛びぬけた教養を持つがゆえ、実母からも疎まれ、また、自分が恋した相手との関係もうまくいかない。恋愛を描いた作品として一流ですが、天才の孤独もひしひしと伝わってくる作品です。

不思議の国のアリス』はディズニーのアニメを見ていて、今でもセリフを全部覚えていますし、劇中の歌も全部歌えます。ただ、原作は挿絵のタッチがアニメとまったく違いますし、どこか不穏な感じがある作品です。今読んでもはっきりと理解できない場面もあり、奥が深い物語だと思います。

『丸かじり』シリーズは、東海林さだおさんがさまざまな食べものについて、独特の筆致でつづったコラム集です。

東海林さんの独自の視点にハッとさせられる反面、私自身の感じる「美味しさ」との共通点もたくさんあって。東海林さんは私とは父親以上に年が離れているんですけど、年齢が離れていても、食への感覚が一緒なのが、嬉しかったですね。

私にとっての読書は、ご飯みたいなもの。読むことは特別な行為ではありません。気づいたら自然に本を手に取るような感じです。ご飯と同じで、「美味しい」もののほうがより良いので、さまざまな読みごたえのある本を、これからも探していくのだと思います。(取材・文/若林良)

▼最近読んだ一冊

「元ストリッパーの女性が主人公です。去年モデルになった女性の演技に触れて、3年ぶりに読み返したら全然違いました。実際に見に行ったことで桜木文学の円熟味に、少し追いついていけるようになったのかも」