衝撃的な川崎殺傷事件「予備軍は多い」に対する大きな違和感

正確な犯罪理解をするには
原田 隆之 プロフィール

単純化するのではなく

ここで大切なのは、決定論的な単純化ではなく、生物学的要因と環境的要因の「相互作用」ということである。こうした複雑な相互作用を丁寧に検討しなければ、犯罪という複雑な現象の理解もできないということである。

つまり、「氏か育ちか」という二者択一的な説明ではなく、「氏も育ちも」そのどちらもが重要であり、それらの複雑な相互作用を理解することが、真の犯罪理解に到達できる方法だということである。

科学とは、イデオロギーや先入観に縛られず、まずは冷静に客観的に現象を観察することから始まる。それは、犯罪心理学においても同様である。

本件で加害者の生物学的要因にどれだけ迫ることができるのか、そもそもそのような捜査がなされるのかどうかはわからない。そして何かわかったところで、効果的な対策につながるとは限らない。

しかし、悲惨な事件を理解し、将来的な対策につなげるためには、科学的な理解が必要だということを強調したい。

〔PHOTO〕gettyimages

最後に、加害者の生物学的な点で、1つ気になっていることがある。それは、加害者の年齢である。これまでの類似事件の加害者を見ると、ほとんどが20代、30代の比較的若い年代である。

本件の一報を聞いたとき、私は加害者は若い男性であろうと想像していたが、50代ということを聞いて、少し驚いた。

 

通常、人間の攻撃性には男性ホルモンであるテストステロンが深く関与しており、その分泌は20代をピークに徐々に減少していく。人が加齢とともに丸くなって穏やかになるのはそのためである。それと呼応するように、特に40代以降の粗暴犯罪も減少する。

加害者は、何らかの理由で壮年期に達しても血中テストステロンが高値であったのかもしれない。あるいは、ほかに攻撃性や負のエネルギーを増大させる他の生物学的、環境的な要因があったのかもしれない。

加害者が亡くなったいま、その謎も解明されないかもしれないが、単なる社会環境だけの一方的な説明では、複雑な犯罪行動の十分な理解には至らないことを再度強調しておきたい。

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