衝撃的な川崎殺傷事件「予備軍は多い」に対する大きな違和感

正確な犯罪理解をするには
原田 隆之 プロフィール

理解をさらに深めるために

そして、本件の理解をさらに深めるためにできることがもう1つある。しかし、それを述べると、大きな批判を浴びることになるかもしれない。

それを覚悟のうえで、しかし正確な犯罪理解のため、そして科学的な犯罪心理学的な見地からは、どうしても避けて通れない点がある。それは、本人の生物学的な問題からの理解である。

加害者は死亡しているが、その脳を分析しようと思えば、それは今からでも不可能ではない(実際に行うかどうは別として、可能性だけについて言えばということである)。

実は、近年の犯罪心理学で最も注目を集めているのは、犯罪者の脳や神経系など、犯罪につながる生物学的な要因についての研究なのである。

実際、粗暴犯罪者の生物学的特徴として、脳のさまざまな部位の構造的、機能的異常が報告され、エビデンスが蓄積されつつある。さらに、先述のパーソナリティにしても、それには多くの生物学的要因が影響している。

そうした所見を、この加害者が有しているかどうかを分析することは、事件の解明だけでなく、今後の犯罪学の発展にとても大きな前進となることは間違いない。

しかし、犯罪理解において、生物学的なトピックを持ち出すことは、危険な一面もはらんでいて、読者のなかにはその危険性を感じた方も多いであろう。その理由はたくさん考えられる。

 

1つは、優生学に結びつくのではないかという懸念である。危険な脳の持ち主が、危険な犯罪に至るのであれば、脳のスキャンをして、社会から隔離すればよいなどという、映画さながらの状況へとつながるかもしれない。

2つ目は、1つ目の理由とも大きく関連するものである。環境が犯罪の原因であれば、それを変えることによって、犯罪対策になるかもしれないが、脳が原因となると、何をどうすればよいかわからなくなる。そして、それこそ優生学に行きつくのではないかという懸念につながる。

しかし、現実世界において、脳や生物学的要因の影響は、従来考えられていたほど単純なものではない。脳に危険な兆候があったとしても、それを発現させるのは、環境の影響が非常に大きい。

さらに、脳には大きな可塑性(かそせい)があり、特に発達の早期であれば、教育や周囲の働きかけ、すなわち環境によって、その機能不全の発現を予防したり、補ったりすることもできる。

逆に、脳に危険な兆候がなくても、環境が劣悪であれば、犯罪などの問題行動を誘発することもある。

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