衝撃的な川崎殺傷事件「予備軍は多い」に対する大きな違和感

正確な犯罪理解をするには
原田 隆之 プロフィール

予備軍はたくさんいるのか

一方、事件を報じるワイドショーのなかで、犯人の心理を分析した精神科医が、「こういう事件の予備軍はたくさんいます」と力説していたのを見て、私は大きな違和感を抱いた。 

たしかに、格差社会の拡大、リストラ、生涯未婚率の増加、地域社会の解体など、現代社会のキーワードを並べてみると、加害者とされる男性と似たような境遇の人が増加していることは間違いない。

また、本人がいわゆる「高齢ひきこもり」であったとの情報が、川崎市の会見で明らかにされた。

しかし、それらの人々をあたかも「凶悪犯罪者予備軍」のようにとらえるのは、非常に乱暴であり、危険なスティグマにつながる。

現実的に、こうした人々が増えていても、わが国では凶悪事件は減少の一途であり、彼らの圧倒的大多数は、何の罪も犯さない善良で遵法的な市民である。

恵まれない環境にあっても、正しく生きている大多数の人々をこのような形で一括りにして貶めることは、断じてあってはならない。

したがって、事件を正しく理解するためには、本件の加害者は、似た境遇にある多くの人々とどこが違うのか、なぜ彼はこのような事件を起こすに至ったのかについて、もっと緻密で丁寧な分析が必要である。

その答えの1つは、彼のパーソナリティにある。

報道が過熱している〔PHOTO〕gettyimages

パーソナリティ要因

犯罪のリスクファクターとして、最も重要なものの1つが「反社会的パーソナリティ」である。

それは、法や社会のルールを軽視する傾向、目先の利益を追い求める傾向、攻撃性、衝動性、共感性の欠如、自己中心性、被害者意識、敵意などで特徴づけられるパーソナリティである。

こうしたパーソナリティの持ち主であれば、自分の現状に対して、自らを反省したり奮起したりするのではなく、他罰的に周囲を責め、いたずらに被害者意識や敵意を募らせ、衝動的に攻撃的な行動に出ることは容易に想像できる。

しかも、本人が社会的に孤立し、不適応に陥った原因も、元々こうしたパーソナリティに起因するのかもしれない。

 

報道では、近所の人ともたびたびトラブルを起こし、自分勝手な理由から大声で怒鳴り込んだりしていたということである。

こうしたパーソナリティや行動パターンを有した人が、周囲から疎まれ、孤立していくことは想像に難くない。

しかし自らが蒔いた種で不適応状態に追い込まれても、本人は自分の行動を改めるわけではなく、なおさら周囲に責任転嫁して、さらに憎悪を募らせる一方となる。

本件の加害者は死亡しているが、今後周囲の証言などが集まってくるなかで、こうした事件前のパーソナリティの一端がますます明らかになれば、本件の爆発的ともいえる拡大自殺に至る経路をより正確に理解することにつながるだろう。

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