5月28日朝、川崎市登戸駅近くで起きた痛ましい殺傷事件。スクールバスを待っていた小学生と保護者19人が次々と包丁で刺され、2人の尊い命が奪われました。怪我を負った子どもたちのみならず、その場にいた方々、学校や家族関係者、地域の方々のショックは計り知れません。

では、犯罪被害にあった人たち、子どもたちを、周囲や私たちはどのように支えることができるのでしょうか。20年近く犯罪被害者支援に携わってきた臨床心理士の西脇喜恵子さんに、犯罪被害にあったときの心理や、私たちが知っておきたい心のケアについて寄稿してもらいました。

当たり前の日常が暴力的に奪われた

今、とてもいたたまれない気持ちでこれを書いています。犯罪被害者支援に携わって20年近く、被害に遭った方たちの口から、「これ以上、自分と同じ思いをする人が出てきてほしくない」という言葉を何度聞いたことかわかりません。それなのに、こうした痛ましい事件があとを絶たない非情な現実に、胸がつぶれる思いです。

いつもと変わらない朝が始まっていたはずです。まだ眠たそうな我が子を起こし、朝ご飯を食べさせ、週末の楽しかった運動会の余韻にひたりながら、もしかしたら食卓にそんな話題がのぼったご家庭もあったかもしれません。忘れ物はない?ほら、もう出かける時間だよ。気をつけて。行ってきます。

昨日も今日も明日も明後日も、ずっと続くと思っていたそんな当たり前の日常が、今回のように何の前触れもなく、突然、一方的に暴力的な形で奪われてしまう。そして、事件に遭う前の生活は二度と戻ってこない、その痛烈な現実を生き抜いていかなければならない
それが犯罪被害です。

犯罪被害直後のショック状態

事件に巻き込まれた直後は、何がなんだかわからず、ただショックと混乱が続く状況に投げ出されます。「まさか」「うそでしょ?」という思いばかりが先立ち、現実を現実のものとして受け止めることがなかなかできません。事件から少し時間が経って、当時のことを振り返ったとき「直後の1週間は何を食べ、日々をどうやって過ごしていたのか、よく覚えていない」とおっしゃる被害者は少なくありません。

こういった現実感覚の喪失や感情の麻痺は、災害や犯罪被害のように、生命を脅かされるようなできごと、いわゆる心的外傷体験を経験したときに起きる、急性期反応だといわれています。

急性期反応は他に、うまく眠れない(寝付けない、眠りが浅い、夜中に何度も目が覚めてしまう、悪い夢を見るなど)食欲がない(または食べ過ぎるほどに食べてしまう)強い不安や恐怖に襲われる動悸やだるさ、頭痛がおさまらないといった形で出てきます。

お子さんの場合は、大人に比べ、自分の状態や感情をうまく表現できないところがあります。例えばおねしょをする、甘えてそばから離れない抱っこをねだる指しゃぶりをする暗いところで寝られない一人でいることができないといった赤ちゃん返りの形で出てきたりします。お子さんによっては、逆に、こちらが心配になるほどのハイテンションで明るくふるまったり、ときには、事件を想起させるようなごっこ遊びを始めたりすることもあります。

そんな子どもの様子にどう対応すればよいか、周囲の大人は戸惑うことも多いと思いますが、事件後に起きるこのような変化は、一般的に病的なものではありません。むしろ、日常からは考えられないほどの怖い思いをしたわけですから、心身が反応するのは、ある意味、当たり前のこと。時間の経過とともに落ち着きを取り戻していくことも多いので、甘えたいときには甘えさせながら、お子さんの様子を見守っていただけたらと思います。

大人の側からすると、一見、不謹慎に思えるごっこ遊びにしても、一方的にたしなめてやめさせるのではなく、「怖かったよね」「でも、もう大丈夫だよ」とそんな声をかけていただけると、子どもの安心感につながります。

とにかく安心させてあげること。抱きしめてあげること。そういうことが、とても大切だ Photo by iStock

もし、急性期のこのような反応が長く続いたり、心配な様子が高じたりするようであれば、犯罪被害に理解のある医療機関や相談機関、民間の被害者支援団体に相談するのも選択肢のひとつです。