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私たちは先祖のほとんどからDNAを受け継いでいない

直感を裏切る遺伝の真実

源氏の子孫

最近はあまり聞かなくなったが、私が子供のころは、源氏や平氏の子孫だという年配の人がときどきいた。「うちは源氏側だからね」みたいなことを言うわけだ。数百年のときを越えて源氏や平氏の血脈が受け継がれているなら、それはたしかに魅力的な話である。

それから中学生ぐらいになって、すこしは遺伝の仕組みがわかってくると、そういう話がアホらしく思えてくる。かりに本当に源氏の子孫だったとしても、源氏の血脈はだんだんと薄まっていくから、もうその年配の人にはほとんど受け継がれていないだろう。昔になればなるほど、その血脈はすでに薄まっていると、私は考えたわけだ。

でも、よく考えてみると、そう単純な話ではなさそうだ。

私たちのDNAはおよそ60億もの塩基対を含んでおり、すべてのDNAを1本につなげると約2メートルになる。しかし、実際には細胞の中で46本に分かれている。この46本は、タンパク質などと結合して染色体という構造を作っている(ミトコンドリアの中にもDNAがある。しかし、ミトコンドリアDNAの量は核DNAの20万分の1に過ぎないので、今は無視する)。

【CG】ヒト染色体
  2組44本の常染色体と2本の性染色体からなるヒト染色体の図 degital image by gettyimages

2つの染色体が並んで、その一部を交換することを組換えという。精子や卵を作るときに、この組換えが起きる。しかし、単純に考えるために、とりあえず組換えは起こらないとしよう。すると、あなたの46本のDNAは、組換えによって変化することはない。ずっと同じDNAのままである。そしてあなたは、母親と父親から23本ずつDNAを受け継いだのだ。

ところであなたの母親も、祖母と祖父から23本ずつ、合わせて46本のDNAを受け継いでいる。その46本の中から23本をあなたに受け渡した。その23本の中の何本が祖母から母親に来たものか、あるいは祖父から母親に来たものかは偶然による。祖母から10本で祖父から13本かもしれないし、祖母から12本で祖父から11本かもしれない。とにかく、あなたの46本のDNAは、両親を越えて、4人の祖父母から11本ぐらいずつ受け継いだものになっている。

さらに考えを進めると、あなたの46本のDNAは、8人の曽祖父母から6本ぐらいずつ受け継いだものであり、16人の高祖父母から3本ぐらいずつ受け継いだものであり、32人の高祖父母の親から1本ぐらいずつ受け継いだものであり、64人の高祖父母の祖父母から受け継いだり受け継がなかったりしたものだ。

【写真】高曾祖父のだいまでさかのぼると?
  私たちの46本のDNAは、64人いる高祖父母の祖父母からは受け継いでいないものもある photo by gettyimages

このように、高祖父母の祖父母になると64人もいる。しかしDNAは46本しかない。つまりあなたは、少なくとも64-46=18人の高祖父母の祖父母からはDNAを受け継ぐことができない。さらに、128人いる高祖父母の曽祖父母の少なくとも128-46=82人からはDNAを受け継ぐことができない。

そして256人いる高祖父母の高祖父母の少なくとも256-46=210人からは、DNAを受け継ぐことができないのだ。