「イギリスEU離脱」大混迷の中、ブレグジット党が大躍進したワケ

国民はいら立っている…
小林 恭子 プロフィール

ブレグジット党勝利の理由

今回のブレグジット党の大躍進は、残留派も含む国民のいら立ちの表明だ。複数の世論調査ではかつての離脱派、残留派の割合はそれほど変わっていない。しかし、どの国民も、そしてビジネス界も「早く決めてくれ」という声が強い。

先の国民投票のキャンペーンで、ファラージ氏率いるUKIPは「普通の国民」対「国民の苦しみを分かっていないエリート層」という構図を描いて見せた。

EU市民の流入によって生活・雇用面で負の影響を受ける国民の苦しみを「政治家や銀行家、エリート層は理解できない」と主張し、これが多くの人の心の琴線に触れた。

今回も、この戦略が効いた。離脱を実現できない政治家を含むエリート層に「国民は裏切られた」とファラージ氏はいう。「だから私は戻ってきた」。今度こそ、本当に離脱を実現する必要があるのだ、と。今度は、「人種差別的」というレッテルがついたUKIPではなく、新たな政党での勝負である。

ブレグジット党はいわゆる「シングル・イシュー(一つの議題を焦点とする)」の政党で、「離脱すること」が党の目的である。運営資金は個人や投資家(元保守党やUKIPに投資をしていた人々を含む)からの献金だ。

党員制度を持っていないが、4月中旬の本格結党から選挙日までに10万人の支持者を集めた。候補者は元UKIPの欧州議会議員、保守党元議員、企業経営者、ジャーナリストなど。

 

ほかの政党はなぜ票を増やせなかったのか

英国の欧州議会での議席数73のうち、最大数を獲得したのはブレグジット党(29議席、有効票全体の31.6%)、これに続くのが自由民主党(16議席、同20.3%)、労働党(10議席、14.1%)、グリーン党(7議席、12.1%)、保守党(4議席、9.1%)、スコットランド国民党(3議席、3.6%)、プレイドカムリ党(1議席、1%)など。

与党保守党は前回3位だったが、今回は5位。前回から得票数は14.8%減だ。最大野党労働党(前回2位)も11.3%減。UKIPは24.2%減で、1議席も獲得できなかった。ブレグジット党は保守党、労働党内の離脱支持者、UKIPから票を奪ったのである。

ブレグジット党は欧州議会選挙の英国の12の選挙区の中で、ロンドンとスコットランド、北アイルランドを除くすべての選挙区で第1位となった(ロンドンは自民党、スコットランドはスコットランド国民党が1位。北アイルランドの3議席は、民主統一党、シン・フェイン党、アライアンス党がそれぞれ1議席を獲得)。

ブレグジット党と同時に大きく票を伸ばしたのが親欧州派の自民党(13.4%増)だった。自民党が躍進したのは国民投票の結果にもかかわらず、「残留支持」を明確にしたからだ。

世論調査に詳しいスコットランドのストラスクライド大学ジョン・カーティス教授によると、「2つの大きな政治の流れ」が見えてきたという。

1つはブレグジット党に投票した人々だ。国民投票で離脱に票を投じ、未だ離脱が実現していないことに失望している。

もう1つの流れは、自民党に投票した人々。国民投票では残留を選択し、離脱の決定を取り消すか、再度の国民投票を望んでいる。

保守党と労働党という2大政党が大敗した理由だが、保守党の方は絶対実現させるとメイ首相が言っていたにもかかわらず、離脱が実現できなかったことが最大の理由となる。今回の選挙では、実質的な選挙運動は全くしていなかった。

労働党は「離脱支持なのか、残留支持なのかが不明確だった」ことで、こちらもほとんど選挙運動をしていなかった。

保守党は内閣も含め、強硬離脱派、離脱派、残留派でバラバラ状態となっており、野党も議員の大部分が残留派であるのに都市部を除く地域に住む支持者が離脱を選んでおり、2017年の下院選では離脱を実施するとマニフェストで確約していたものの、玉虫色の印象を与えてきた。

保守党党首のメイ首相は元々残留派だが離脱を推進せざるを得なく、野党のコービン党首は個人的にはEU懐疑派だが同党の議員らは残留支持、しかし支持基盤を置くイングランド地方北部には離脱支持が多いと言った、何重ものねじれ現象を抱えた。