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米国産食糧輸入制限と突っ張っても、実は食糧調達に困る中国

泣き面に蜂、豚コレラと穀物害虫

引くに引けない局面だが

5月9日から2日間の予定で米国の首都ワシントンで開催された米中貿易協議は、米国通商代表部(USTR)代表のロバート・ライトハイザー(Robert Lighthizer)と中国副首相の劉鶴(りゅうかく)との間で討議が行われたが、米中間に横たわる深い溝を埋めることができず、合意に至らぬまま5月9日夜に決裂した。

これを受けて米国政府は5月10日の米国東部標準時0時1分から中国からの輸入品2000億ドル相当に対し関税率を現行の10%から25%に引き上げる制裁措置を発動した。また、5月13日にはトランプ大統領が現状のところ課税対象外となっている中国からの輸入品3250億ドル相当に対して最大25%の関税率を適用する手続きに着手するようUSTRに命じたというが、適用の開始時期については未定とされている。

一方の中国は5月13日に報復措置として、米国からの輸入品600億ドル相当のうち2493品目に対する関税を25%に、その他の品目に対する関税を5~20%に引き上げるとして、6月1日からその適用を開始すると発表した。米中両国による貿易戦争はますます深刻さを増しており、泥沼化により長期化するものと考えられる。

ところで、中国政府“国家統計局”のデータによれば、2017年における世界の豚肉消費量が1億1103万トンであるのに対して、中国の豚肉消費量は5487万トンで、世界の豚肉消費量の49.6%を占めていた。また、2017年に米国農務省(USDA)は「2018年における世界の豚肉消費量は1億1258万トンに達し、世界最大の豚肉消費国である中国の豚肉消費量は2018年に5612万トンに達し、世界の豚肉消費量の50%を占める」と予測していた。

その自他共に認める世界最大の豚肉消費大国である中国では、2018年8月3日に遼寧省瀋陽市の沈北新区に所在する養豚農家で“非州猪瘟(アフリカ豚コレラ)”に感染した豚が見つかったのを皮切りに、アフリカ豚コレラは強い感染力で31ある一級行政区(省・自治区・直轄市)を徐々に浸透する形で感染を拡大し、最後に残っていた海南省で2019年4月19日に豚の感染が確認されたことで、アフリカ豚コレラによる中国全土の陥落が確定した。

アフリカ豚コレラの蔓延によって中国国内の“生猪(生きた豚)”出荷量は減少した。2019年2月の“生猪”出荷量は前月比5.4%の減少、前年同月比16.6%の減少であった。中国農業科学院の専門家によれば、第2四半期も“生猪”出荷量は引き続き減少が見込まれるので、2019年における中国国内の豚肉生産量は6.7~10.6%減少することが予想される。また、これを補うために、2019年に中国が輸入する豚肉は170万トン~200万トンに達すと予測されるという。

 

豚肉が高くて食べられない世界最大の豚肉消費国

2018年11月30日から2日間の日程でアルゼンチンのブエノスアイレスで開催された20カ国・地域(G20)首脳会議に参加した米国大統領のトランプと中国国家主席の習近平は12月1日に会談をおこなった。

この会談で双方は、中国の知的財産権侵害の改善策に関する協議を継続することで合意し、その見返りとして、米国が2000億ドル相当の中国製品に課す追加関税の税率を、来年1月から現行の10%から25%に引き上げるとしていたのを90日間猶予するとしたのに対して、中国は農産物を中心とする米国産品の輸入拡大に努めることを約束した。

この結果、中国は中国国内で不足が予想される大豆と豚肉の輸入契約を拡大したと言われているが、2019年5月17日付でロイター通信が報じたニュースによれば、上述した5月10日の米国による制裁措置発動後に、中国の業者が3247トンの米国産豚肉の注文を取り消したことが5月16日に米国農務省(USDA)の統計で判明したという。

USDAの統計によると、2019年に入ってから中国業者による米国産豚肉に対する注文の取り消しは、2月28日までの週が53トン、3月21日までの週が999トン、4月18日までの週が214トンとなっており、5月16日までの2019年の注文キャンセル総量は4513トンとなっている。

なお、中国の税関統計によれば、2019年1~2月の冷凍豚肉輸入量は20.7万トンで、前年同期10.1%の増加であった。また、3月22日には,中国とポルトガルが締結した中国による豚肉輸入契約に基づく第1回分の冷凍豚肉24.99トンが天津港へ到着し、これらの豚肉は北京市、天津市、河南省などの地区向けに販売されたという。米中貿易戦争のあおりを受けて、米国産豚肉に対する注文をキャンセルする一方で、手あたり次第に世界各国へ豚肉供給の可能性を打診し、懸命に豚肉の輸入を実現すべく努力しているのが中国である。

国連食糧農業機関(FAO)の最新統計によれば、2017年の国別豚肉生産量は、第1位:中国(5452万トン)、第2位:米国(1161万トン)、第3位:ドイツ(551万トン)、第4位:スペイン(430万トン)などとなっていて、十分な輸出余力があるのは米国くらいで、大量の豚肉を輸出可能な国はさほど多くない。なお、上述のポルトガルは第31位:(38万トン)と豚肉の生産量は非常に小さく、豚肉の輸出能力は限定されている。中国が米国に代わる豚肉供給国を見付けて、豚肉の輸入量を増大しない限り、中国国内の豚肉需要を満足することは困難と思われる。

中国政府“農業農村部”発表のデータによれば、4月22日から26日までの間に31ある一級行政区中の16カ所で“猪痩肉(豚の赤身)”の平均出荷価格が1キログラム当たり20.14元(約322円)まで値上がりして、前週より1.1%上昇となったが、これは昨年同期に比べて46.3%の上昇であった。豚肉価格は今後も引き続き上昇することが予想されるが、人々はすでに“吃不起猪肉(豚肉は高くて食べられない)”と悲鳴を上げているのが実情である。