〔PHOTO〕gettyimages

トランプ大統領をとことんもてなす手法に見た「安倍政治の本質」

「やってる感」が大事なのか…

「毅然とした外交」はどこへ?

ドナルド・トランプ大統領来日フィーバーが、ここ数日、日本で起こった。

世界を次々と不安と混乱に陥れている「ゴジラ」を、日本は笑顔で呼び寄せ、新天皇に会わせたり、ゴルフをやったり、相撲を見せたり、居酒屋で宴会やったり……。私はどうも、このフィーバーの輪に加わる気になれなかった。

象徴的な光景があった。5月26日夕方6時頃、東京・六本木の炉端焼き店「田舎家東店」での日米両首脳の冒頭コメントだ。

トランプ大統領:「われわれは素晴らしい時間を過ごした。そして首相と私は、貿易と軍事について、多くのことを話した。とても生産的な一日だ」

安倍首相:「リラックスしながら、様々なことについて議論を行いたい、意見交換をしたいと思います」

このように安倍首相は未来形で話し、トランプ大統領は過去形で話したのだった。そして安倍首相の目はにこやかに垂れ下がっていたが、トランプ大統領の目は鋭く、スキの無い様子だった。

トランプ大統領は、「オレは遊びに来たわけではなくて、日本から多くの物を取っているんだぞ」と、自国民にアピールしたのである。先月、韓国の文在寅大統領をホワイトハウスに呼んだ時と同じモードだ。

実際、トランプ大統領は、ツイッターでそのような内容のことをつぶやいている。

〈 日本との貿易交渉で大きな進展ができつつある。農産物と牛肉が、大きな役割を果たす。日本の7月の選挙まで待ったら、大量だ。大きな数量を期待しているぞ! 〉

「参院選が終わったら、アメリカに大きく妥協いたしますから、どうかその時まで待ってください」――そのように平伏している安倍首相の姿が浮かび上がってくるようだ。

「すでにアメリカとはTPP(環太平洋パートナーシップ協定)で妥結しており、また勝手にTPPを離脱したのはあなたであり、日本は大いに迷惑している。よってTPPのレベルを超える譲歩はできない」――このような正論を吐いているとは思えないのだ。

ここ数日の「芸者外交」は、もどかしく思えた。安倍首相が常々自負している「毅然とした外交」は、どこかへ消し飛んでしまったようだった。

〔PHOTO〕gettyimages

トランプ大統領は、就任以来、2年半近くにわたって、世界の秩序を破壊し、不安定化してきた最大の「戦犯」である。関税の異常な引き上げによる自由貿易体制の破壊と保護主義礼賛、一企業に対する根拠を示さないイジメによるアジアのサプライチェーンの瓦解、北東アジアを危険な道に追い込む「ハノイの決裂」、7ヵ国で合意した中東の和平システム(イラン核合意)からの離脱によるシーレーンの不安定化、そして日米を基軸としたアジア太平洋の自由貿易体制(TPP)や、地球温暖化を阻止するための世界的合意(パリ協定)をも一蹴……。

こうしたトランプの勝手気ままな振る舞いと、日本は本来なら一線を画しているはずだ。例えば、ドイツのメルケル首相やフランスのマクロン大統領などは、今回の日本のような外交手法は取らないはずだ。

 

安倍首相の考え方

何だか気分がモヤモヤして、ある外務事務次官経験者の元外交官にボヤいたら、苦笑しながらこう答えた。

「確かに日本外交を表面的に見ると、情けなく思えるかもしれない。だが実は、明治維新以降の150年間、日本外交の基本原則は、まったくぶれていないのだ。

それは、常にその時々の世界の最強国に付き従ってきたということだ。20世紀初頭には、それまでの不平等条約を乗り越えて大英帝国と同盟を結び、ドイツがヨーロッパ最強になるとドイツに付いた。そして第2次世界大戦後は、一貫してアメリカに付いている。

日本が自ら超大国になることは、残念ながら不可能だ。そうなると、アメリカにどんな特異な大統領が出現しようが、いまだにアメリカが世界の最強国であることに変わりはないのだから、それに付き従うのが、日本外交の最良の道ということになる」

なかなか含蓄のあるお説だった。だが、私はなおも食い下がった。

「では、3点お伺いします。第一に、トランプがあれだけバカなことを繰り返していても、同盟国である日本は『諫(いさ)める』ことをしないのですか? 江戸時代の武士だって、アホな君主が出た時には、諫めたのではないですか?

第二に、次のアメリカ大統領選で、『私は民主社会主義者だ』と公言するバーニー・サンダース候補が勝利したとしても、日本はアメリカ従属外交を続けるつもりですか?

第三に、今後中国が台頭してきて、アメリカを凌駕する超大国になったら、その時は日米同盟を日中同盟に切り替えるのでしょうか?」

とたんに、元外交官の表情は険しくなった。