「現状維持」は衰退への第一歩(井上康生)

12年のロンドンオリンピック後に柔道日本代表監督のバトンを引き継いで以来、様々なことに挑戦してきました。

科学的なトレーニングを導入したり、強化合宿や指導現場で、ただ柔道の練習をするのではなく、別の格闘技を行ったり、ほかのスポーツ選手や一般企業の方に講演していただいたり、陶芸のような日本文化の体験学習も取り入れました。中には選手が「これ、意味あるのか」と口にするものもありました。でも、それでいいと思っています。意味がないと思えば自分で除けばいいだけです。我々の集団は失敗を恐れるところがあるのですが、知らないことに挑んで、どんどん失敗してもらいたい。失敗を繰り返すことで、それが血となり肉となっていくのですから。

そうした取り組みに対しては歴史のある柔道界ですから、批判や反対の声が非常に多いのも事実です。ですが、それを恐れていたら組織は変われない。なにも変えないほうがエネルギーを使いませんから楽だと思います。

でも時代は変化しています。選手の指導法にしても柔道のスタイルにしても社会的な背景が変わっている中で、私の現役のころと同じであるほうがおかしい。変わって当たり前ですし、現状維持、現状満足というものは衰退を招く。常に向上心を持って、進化できると信じながら戦うことが選手一人一人、また、我々の組織をより大きくしていってくれるはずです。

もちろん、先人の方々が築き上げてくださった伝統や精神は受け継いでいくべきです。私も科学的、効率的なものだけをやっているわけではありません。非科学的、非効率的なものや根性論も絶対に必要な部分があると思っています。ただ、それだけに走ってもいけない。それぞれをどうマッチングしていくかが大事だと考えています。

もう一つ重要な要素として、選手たちにいつも伝えているのはグローバル化が進む中で、もっと日本人であることの誇り、自信を持ってもらいたいということ。世界を見たときに、「世界はすごいな」という目線しか持とうとしないのがとても残念です。技術においても海外に勝るものはたくさんありますし、精神的なものにおいても同様です。それは柔道やスポーツに限りません。モノづくりという分野でも日本人の技術力は途轍もないものがある。世界に大きな影響を与えていける。日本人であることに、もっと誇りを持っていい。

来年に迫った東京オリンピックでも、一人でも多くの金メダリストを輩出できるように努力するだけでなく、日本の底力というものを世界に見せられるような戦いをしていきたいと思っています。(談)