我武者羅よりも正しい努力(松田丈志)

水泳を始めたのは4歳の時です。スイミングクラブで泳ぐ姉を見て、「僕もやってみたい!」と思ったんです。とにかく水の中にいるのが楽しくて、すぐに夢中になりました。

当時、地元の東海(宮崎県延岡市)には本格的なスイミングクラブがなく、私が通っていた東海スイミングクラブは水泳好きがボランティアで立ち上げた教室。プールも地元の公立中学校に借りて使っていました。ただ、屋外にあるので冬期は利用できません。そこでコーチや親たちが募金、バザーなどでお金を集め、ビニールの屋根でプールを覆ったんです。

おかげで雨風はしのげるようになりました。でも、冬の寒さはさほど変わらず、水温9℃の中で泳いだこともあります。一方の夏は熱がこもるのでとんでもなく暑い。現役を引退するまで、この〝ビニールハウスプール〟で練習をしていたんです。

だからといって、自分が不遇だと思ったことはありません。むしろ、逆境を糧にして練習に取り組んだ結果がオリンピックのメダルにつながっている。ただ、環境が大事だと感じることもあります。

初めて出場したアテネオリンピックで、メダルを取ることができませんでした。この悔しさから「オリンピックのメダリストになる」ことを目標に定めます。しかし、世界で勝ちきるためのノウハウは、私はもちろん、長年指導を受けていた久世由美子コーチにも十分ではなかった。

それからはトライアル&エラーの日々です。失敗したから見えたこともありますが、ずいぶん回り道もしたなって思う。正しい努力の仕方を知っていれば、もっとスムーズに目標に到達できたはずです。

そのためには、指導法や施設、トレーニング器具といった環境が重要です。データの収集・分析をもとにした科学的アプローチもそうですね。これはどの競技も同じ。東京オリンピック・パラリンピックが決まってから環境はずいぶん整備されたと思います。でも、障がい者スポーツ、それから私の地元のような地方はまだまだ遅れている。

だから私はトップアスリートのトレーニング施設に蓄積されるノウハウを、全国各地の競技者に還元していくことが大事だと感じています。正しく努力をすれば誰でもより早くパフォーマンスはあがる。そして、障がいを持つ人も地方の子どもたちも、もっとスポーツの楽しさを実感できるようになると思うんです。

'16年に現役を引退してからはジャーナリストとして様々なスポーツの現場を取材しています。これからは競技経験者の一人として取材で得た学びと経験を還元し、スポーツの魅力を日本中に伝えていきたいですね。(談)