挫折が育てた「考える力」(中田久美)

東京オリンピックの翌年に生まれた私は、「東洋の魔女」から続く日本女子バレーの黄金期を見ながら育ちました。自分もああいうふうになりたい―そんな憧れからバレーボールをはじめました。

夢を追いかけるうち、中学3年生で日本代表に選ばれました。幼い頃から「自分にとってバレーボールとは何か」を考えるうちに、ただ好きなだけではなく、バレーをプレーすることで「誰かの夢を背負っている」という意識が次第に芽生えていきました。それが「日の丸」を背負うということであり、アスリートの価値の一つだと思います。

歴史や伝統を引き継ぎながら、変えなければいけないものは変え、新たな価値を生み出すことがいま求められています。ITが常識になり、欲しい情報が誰でもすぐに手に入る時代。膨大なデータを活用するためには「考える力」が重要です。そもそもバレーでは、100種類に及ぶサインを駆使します。例えば最後にトスをあげるセッターは、スパイクまでの味方と相手の動きを、すべて逆算してプレーする。凄く頭を使う競技なんです。

そして指導者として選手に伝えているのは、考える力が必要なのはコートの中だけではなく、人生も同じだということ。自分自身が、世の中のために、将来に向けて何ができるか考えること。引退後も人生は続きます。自分のキャリアだけでなく、例えば子育ても「考え」なければいけません。バレーのない人生のほうが、ずっと長いんですから。

考える力は「挫折」が育てます。私はオリンピックに3回出場しましたが、挫折の連続でした。憧れの先輩たちのような結果を残せず、バルセロナ大会では自分のミスから敗戦を招きました。でも、人生には勝つ時も負ける時も、いいプレーができる時もできない時もある。その時々に何を感じ、考えるかの繰り返し。挫折のない人生はありません。挫折から立ち直ることで、前に進めるんです。

いま私たち代表チームが最重要視しているのが「対話する力」です。コートの中で、自分が考えたことを仲間と戦わせて認め合う。「言葉の反復練習」で共有していくことでしか、プレーは高められません。最近では、自発的に選手同士のミーティングが生まれていて、状態はどんどん良くなっています。

東京オリンピックではメダルを目指します。4年に1度以上の意味を持った大会。日本中の皆さんに感動していただけるよう準備をしっかりと進めています。結果に絶対はないですが、日々考え、対話することで「最高の過程」を作ることに全力を注いでいます。応援、よろしくお願いします。(談)