漫画家で小説家の折原みとさんは、現在湘南の家でこりきというゴールデンリトリバーと一緒に住んでいる。実は湘南に越したのは30歳をすぎてから。19歳で上京し、21歳でデビューしてからは、東京・中目黒に住み、ミリオンとなった『時の輝き』をはじめとする少女小説や漫画で働きづめの生活を送っていた。
折原さんが湘南に越した大きな理由は、「犬を飼いたいから」だった。しかし実際に飼うことになった初日、「命を飼う責任の重さ」を改めて感じて号泣したことも!(くわしくはこちらの記事参照)
折原さんのエッセイ『おひとりさま、犬をかう』には仕事とはなにか、豊かさとは何か、そしてペットと暮らすとは何かについてが書かれている。その中から、数回限定公開にて、デジタルメディアとして初めて抜粋掲載。犬を飼いはじめ、多くのことを教わったという折原さんに、今回は犬を飼ってよかったことと、盲点だった「問題点」についてお伝えする。
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犬と歩けば友だちができる
ロクに知り合いもいない見知らぬ土地に、おひとりさまがいきなり家を建てて移住してしまったのだから、今考えると、我ながらけっこうチャレンジャーだったかもしれない。
それでも、すぐに近所に友人がたくさんでき、新しい環境や生活にすんなりなじむことができたのは、実は犬の力が大きかったのだ。
それは、引っ越しして2~3日目のこと。
リキはまだ外には出られなかったけれど、私は新しい家の近所を探検してみたくて、ひとりで散歩に出かけることにした。
このあたりは、グルリと1周すると1キロちょっとという住宅街で、緑が多く、高台なので海もよく見える。お散歩するには絶好の環境だ。
もともと私はテレビの「お宅拝見」番組とかが大好きで、住宅街の中をブラつきながらいろんなお宅の外観を眺めるのも好きなのだが、これから自分が住む場所とあればなおさら興味津々。
だけど、速足のウォーキングならともかく、犬もつれていない人間が、ひとりでキョロキョロしながら住宅街をうろついているのはけっこう怪しい。
そんな時、たまたま黒柴のミックス犬を連れたやさしそうなマダムが通りかかったので、思いきって声をかけてみた。
「可愛いワンちゃんですね」
まあ、犬好き同士ならたいがい挨拶はこれでオッケー。
その方は同じ住宅街にお住まいの佐々木さんという方で、偶然にも、わんこの名前はウチと同じ「リキ」ちゃんだった。
なんと! これは犬の神様(そんなのいるのか?)のお引き合わせ!?
つい最近近所に引っ越してきたことや、ウチの子犬も同じ名前だと言うことを話すうちに、私は佐々木さんとすっかり親しくなり、佐々木さんの御紹介で、近所の人たちともたくさん知り合うことができた。
引っ越してきた当時、私はこの住宅街で一番若い世帯主だったのだ。
(比較的)若い女性のひとり暮らしの上に、家で仕事をしているので昼間っからプラプラしているように見える私は、普通なら、明らかに不審人物だったろう。
それが、佐々木さんとの出会いがキッカケで、早い段階で御近所のみなさんに「漫画家」だということをカミングアウトし、あたたかく迎え入れていただくことができた。
リキがお散歩デビューしてからは、朝夕の散歩を通して犬友達もたくさんできて、不安も淋しさも感じることなく、すぐに新しい環境になじむことができたのだった。
それもこれも、犬を飼っていればこそ。
私ひとりだったら、こうはいかなかっただろう。
「犬も歩けば棒に当たる」
という諺があるけれど、私ならこう言う。
「犬と歩けば友達ができる」
コレ、なかなかいい諺でしょう?