アメリカの反リベラル運動に「ゲーム」が利用されていることの意味

NPC=頭空っぽリベラルとは何か?
木澤 佐登志 プロフィール

彼に従えば、NPCを見分けるにはその言動を注視してやればいい。NPCは同じことしか言わないのだ。たとえば、スポーツの話題にはじまり、「某アーティストの新譜は最高!」だとか「あなたのままでいて」だとか、あるいは「トランプはヒトラーだ」だとか……。常に同じバズワード、陳腐化した議論。

そうした硬直化した倦怠を打破しようと本物の議論を仕掛けようものなら、彼らは一斉に貝のように口を閉ざすか不快な顔をしてみせるのだ。そう、彼らはまるでビデオゲームのRPGに出てくる村人、すなわちNPCなのだ。うっかり二度話しかけても、まったく同じ答えしか返してこないあの村人……。

輪廻している魂の数は一定なので現在の世界には(哲学的)ゾンビが溢れているはずであるとする神学的奇想(?)から始まったと思いきや、「NPC」というビデオゲーム板の住人が親しんでいるRPGからのアナロジーを突如持ち出してくるドライヴ感に頭がクラクラしてくるのだが、それはともかく、この奇妙なゲーミング陰謀論の根幹にあるのは実はリベラル左派に対する悪意ある皮肉だ。

そして、後述するように、この陰謀論はミーム(前回の記事を参照)を介してオンライン上でさながらゾンビのごとく大量繁殖していくことになる。

 

アンチ・ポリコレとゲーマーゲート論争

本筋に入る前に、このスレッドが立てられた板の歴史性についても簡単に触れておこう。上述したように、このビデオゲーム板(/v/ )はゲーマーゲート論争において主要な役割を果たしている。ゲーマーゲート論争とは、2014年に起きた女性のゲーム開発者ゾーイ・クインに対するオンラインでの誹謗中傷や脅迫に端を発する一連の事件。

ことの発端は、クインの元交際相手を名乗る男性がブログ上で暴露したスキャンダルで、彼はクインが自作を売り込むためにゲームジャーナリストらと性的関係を持っていたと主張した。この炎上がきっかけとなって、女性のゲーム業界関係者に対する同様の吊し上げや誹謗中傷が相次ぐ。ちなみに、ゲーマーゲートという呼称は、1972年にニクソン政権下で起きた政治スキャンダル「ウォーターゲート事件」にちなむ。

これら一連のオンライン・ハラスメントは、フェミニズムやリベラルが奉ずるポリティカル・コレクトネスに対するバッシングの様相を呈していた。たとえば、ゲームにおける女性の描かれ方(性差別的な表現)をフェミニズムの観点から批判したメディア評論家アニータ・サーキシアンに対するバッシング。

4chanの住人たちは、「表現の自由」を支持する立場からフェミニストらの表現規制論を弾劾した。彼らはフェミニストやリベラルらを「ソーシャル・ジャスティス・ウォーリア(social justice warrior)」、すなわち「社会正義の戦士」と揶揄的に呼んでみせた。

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