あなたなら「心の様に並べた」をどのように英訳しますか?

イメージを大切に
ロバート キャンベル

ガラスの破片のイメージ

2012年1月12日といえば、わたくしはちょうどその一ヵ月後、都内の病院に入って、心臓の手術を受ける準備をしていた頃であった。心房を開き、前年夏に罹った感染症で壊れかけた僧帽弁を修復しなければならない。大手術で、その頃毎週、手術に備えるべく自分の血を採って病院で保管してもらっていた。

 

医師には強く良い血を作るために毎日赤い肉をいっぱい食わねばならないと言われ、よく食べてはいたけれど、夜には牛の血がわたくしの血に代わり体内を巡り、メスが入ると床にこぼれておちる夢などを見たものである。陽水さんと一緒に食べている生牡蠣も、養分の何分の一かが血になって貯められていくかしら。そういうあまり明るくない気分を抱き、割れたガラスの破片について聞き出していた。

その日の陽水さんは、

「いや、実はね、ロバート、そこはね」

という具合に、投げた問いかけの網の目をするりと通り抜けてしまったのである。

幸いわたくしの手術は無事に済み、万事ふだん通りに戻すことができた2016年の秋。TOKYO FMのスタジオで久々に会えた陽水さんに同じ質問をぶつけてみた(ラジオ番組「ミュージックドキュメント 井上陽水×ロバートキャンベル『言の葉の海に漕ぎ出して』」2016年11月23日放送)。陽水さんはその間、気持ちに変化があったのか、今度こそは無粋なわたくしの数々の迷いを正面から聞いてくれたのであった。

「……ガラスが割れたわけで当然すごくエッジのある、触ると指先が傷つきそうなガラスの破片みたいな感じです。僕の作ったときのイメージは、その主人公の心はそうやってガラスの破片みたいにもう壊れていて、つまみ上げると指先が怪我してしまうようなね」

陽水さんの言葉から、英訳は自ずと決まった。暗い病室で聞いていた時に浮かんだ、壊れかけた男の心を意味もなげにひたすらなぞるイメージであった。その訳は、次の通りである。

 One night the stars spilled out.
 A window pane cracked
 so I picked up the pieces,
 lined them up to look like my heart.

『井上陽水英訳詞集』には、50曲の英訳詞と評論をまとめたので、英語で陽水さんの詞に再会していただければ幸いである。

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