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あなたなら「心の様に並べた」をどのように英訳しますか?

イメージを大切に

「星のこぼれた夜」を英訳せよ

日本語が分からないから井上陽水さんに聞いてきた。

 

2012年月12日夜8時。晴れて少し冷たい風が吹いていた。三軒茶屋駅付近のキャロットタワー裏にあるスタバの前で待っていると、時刻通り、黒一色を身に纏った長身の陽水さんが現れた。

「牡蠣に白ワインでもいかがですか?」

おすすめのビストロがあると言うのでそこをめざし歩きつづけたが、入ってみると生牡蠣がないので、明朗な声で「今日はちょっとごめんね」と店員さんと分かりやすい日本語でやり取りをした上で、わたしたちはタクシーに乗り、三宿方面に向かった。ふらっと入った二軒目の店には生牡蠣があり、その牡蠣を頰張りながらさっそく「『心の様に並べた』とはどういうことですか」と、問うてみた。

1978年発売のアルバム「white」に入ったシングル曲「青い闇の警告」の一番の第一連最終行に出て来るフレーズである。

 星のこぼれた夜に
 窓のガラスが割れた
 俺は破片を集めて
 心の様に並べた

陽水さんの歌声で聴くとすっと入ってくるし、文字で読んでもたぶん誰も「分からない」と言わない歌詞ではあるが、しかしわたくしは、英訳しようとする際に難儀した。単語のレベルで言えば「星のこぼれた夜」の「こぼれた」は少し難しい。

「こぼれる」を英語で表現しようとすると、たいがい大げさになってしまうのである。One night the stars tumbled down.と書けば、乾燥機の扉を開けたとたん乾いた洗濯物が次々と床にこぼれおちてしまうような大仰な印象を受ける。

花の終わりを告げる的確な日本語といえば牡丹は崩れる、桜は散る、菊は舞う、そして梅はこぼれるという具合におよそ相場が決まっている。孫の顔に「笑みがこぼれる」といえばどんな厳しい親爺でもホッコリするからイメージはやさしい。

対して英語の場合、tumbleでもoverflowでも spillでも事故を連想させ、避けたい、あるいは片づけたい気分を起こさずにはいられない。適切な言い回しをあれこれ考えた挙句、わたくしはOne night the stars spilled out. とした。容器から液体があふれ出しspillするイメージと重なり、こぼれんばかりの銀河の星に相性よしということで処理させてもらったのである。

問題は、「心の様に並べた」。

単語のチョイスや単数か複数か、時制をどうするかという問題ではない。作詞家でもある歌い手が何を言おうとしているのか、言葉を英語に運んでみてはじめてわたくしには通じていないことに気付いたのである。

「心もよう」という曲もあるから、ガラスを幾何学模様が入ったモザイクタイルのように拾っては今の心の形に沿うごとく、並べてみたというのか。それとも、心のままに、そぞろに並べたという少し抽象的で叙情的な解釈も許されはしないか。戸惑い、考えあぐね、その二者択一の間を行ったり来たりしていた。