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トランプさん、「トクヴィル」をお読みになりましたか?

米大統領の「たしなみ」としての古典

アメリカ政治家の「たしなみ」

ドナルド・トランプ大統領はアレクシ・ド・トクヴィルを読んだことがあるのだろうか。トクヴィルといえば、アメリカ政治思想の古典『アメリカのデモクラシー』の著者である。アメリカについて書かれた古今東西の著作のなかでも一、二を争う有名な本だけに、さすがのトランプでも読んだことくらいあるだろう──と思っていろいろ調べたのだが、何にも出てこない。

スピーチにも言及がない(どなたか何かご存知であれば、お知らせ下さい)。ひょっとしたら、トクヴィルについて知らないかもしれないと心配になる(名前くらいは知っているといいのだが)。

 

なぜ、そんなことを書くかといえば、トクヴィルについての旧著『トクヴィル 平等と不平等の理論家』(講談社選書メチエ)がこのたび、講談社学術文庫の一冊として再刊されたからだ。

文庫化にあたっては、2019年の時点においてトクヴィルの意味を再考する補章を加筆したが、トクヴィルとトランプの関係にも触れつつ、ふと、そもそもトランプがトクヴィルを読んでいるのか気になりだした。

いろいろな記事を読んでいると、中には「トランプはトクヴィルを読んでいないだろう」などと断言するものもあり、ますます不安になってくる。

振り返ってみると、歴代のアメリカ大統領はいずれもスピーチなどでトクヴィルに触れている。中には牽強付会気味のものも見られるが、あたかも、トクヴィルに触れずに終わると教養を疑われると思われているかのような人気ぶりである。

実際、アメリカには「トクヴィル引用集」のような本がある。そこから一言引用して話の枕にするというのが、アメリカの政治家のたしなみなのだろう。それくらいトクヴィルは、アメリカ政治の風景に入り込んでいる。

トクヴィルの予言

前アメリカ大統領のバラク・オバマは、なかでもトクヴィルと縁があった。ハワイの出身であるオバマは、大学進学にあたってアメリカ西海岸のオクシデンタル・カレッジに入学している。リベラルアーツのカレッジとして有名なこの大学で、オバマが最初に学んだのは政治思想史のコースであった。

その教員がトクヴィル研究者として知られるロジャー・ボシェであったことから、オバマはニーチェやウェーバーなどとともに、トクヴィルのテキストに親しむようになる。その後、ハーヴァードで法律学を学んだオバマであるが、その教養の基礎にトクヴィルが見て取れるのは偶然ではあるまい。

もちろん『アメリカのデモクラシー』を読めば、いい政治ができるというわけではない。地方自治や陪審、自発的結社の活動を通じて、市民が日常的に政治に参加する機会を持つことで、民主政治は成長する。

このように説いたトクヴィルに導かれるように、積極的に情報公開や市民の政治参加を推進したオバマであるが、その成果が任期中に現れることはほとんどなかった。むしろ民主的社会の病理は、人と人との関係が希薄化し、個人が孤独のうちに陥ることにあるというトクヴィルの予言を実現するかのように、オバマは政治的に孤立していった。