川村元気「『きつい仕事』と向き合うことで生まれるものがある」

『百花』発売インタビュー【後編】

川村元気は、「日本で一番売れっ子の映画プロデューサー」といって過言ではないだろう。新海誠や細田守といった日本を代表するアニメ監督とタッグを組んで名作を生み、中島哲也や大根仁といった監督ともヒットを生み出している。

川村元気

しかし川村の活動は、映画プロデューサーにとどまらない。昨年は映画監督として、「ピタゴラスイッチ」「だんご3兄弟」を手がけた佐藤雅彦とコンビを組んで短編映画を制作し、カンヌ映画祭コンペティション部門に招待された。シリーズ最高成績を記録した『映画ドラえもん のび太の宝島』脚本を手がけ、『世界から猫が消えたなら』『億男』など小説家としてもベストセラーを連発している。

そんな川村の最新作『百花』のテーマは、「認知症」。エンターテインメント性の高い作品を手がけるイメージの強い川村なだけに、意外に思う人もいるかもしれない。
アラフォーの音楽事務所の社員である葛西泉と、認知症の母・百合子とのふれあいから、人間の「記憶」について掘り下げた本作は、自身の祖母が認知症になった体験が元になっているという(前編参照)。

そもそも川村はなぜ、世界に向けた映像作品をつくるかたわら、自らと向き合うように小説を書き続けるのか。話を聞くなかで見えてきたのは、成功するクリエイターたちに共通するものづくりに対する姿勢だった。

 

小説は「“世界の真実のコア”を掘り当てる」感覚

――映画作品を多く手がける一方で、小説も書き続けていらっしゃいますが、川村さんにとって、どちらの表現も必要ですか?

川村:そうですね。映画は、監督や脚本家、俳優や音楽家など多くの人と、「みんなで高い山に登って、高い山から世界を見る」ような感覚があるんです。一方で、小説は一人ぼっちで、「ひたすら地底を掘っていって、“世界の真実のコア”を掘り当てる」ような感覚。自分の深いところが世界とつながっているような、不思議な感覚ですね。

映画の仕事も小説もどちらも面白いけれど、小説を書くなかで得られる気づきの量って、すごいんですよ。先輩の小説家と接していて思うのは、どう書くかと言うこと以前に、何に気づくかということが大事だということです。

僕は今回、認知症になった人が見ている景色とはどんなものなのか、そこに対峙する人間とは、記憶とは何か、そこから派生して人工知能とは何か、記憶にまつわるいろいろな先端技術や芸術などを取材したわけですけど、普通に調べるよりも、何十倍もいろいろなことに気づけたと思うんです。それは、書くという行為が最後に待っているからでもあります。

そして、書く行為のなかにも気づきがある。ある程度は筋を決めていますけど、書いていくうちに道から外れていって、そこに思わぬ発見があったりする。自分で書いていて自分でびっくりする――それが小説の面白いところですよね。