人は、記憶している沿道の建物などの様子から、自分の位置を割り出す。自動運転車は、この「頭の中の地図」の代わりに「高精度3次元地図」を使う。
「高精度3次元地図」とは、道路わきの建物などを無数の小さな点の集まりとして表したコンピュータ上の立体的な地図のこと。これを事前に作成し、自動運転車のコンピュータに入れておくのだ。
地図の作成には「ライダー」と呼ばれるセンシング技術を使う。自動運転を行う道路上で360度あらゆる方向に無数のレーザーを放ち、何かに当たって跳ね返ってくるまでの時間や角度を測り、レーザーが当たったすべての点の緯度、経度、高さを割り出す。こうして、地形や建物が無数の点の集まりとして表された高精度3次元地図ができあがる。
この地図をもとに自分の位置を正確に割り出し、走行するのだ。
自動運転の最中にも、積み込んであるライダーで、つねに地図を更新していく。自動運転車が道に出るたびに新しいデータをとるので、街の変化に即座に対応できる。
街路樹が切られたとか看板がなくなったというちょっとした変化にも、これで柔軟に対応できるそうだ。
この「ゆっくり自動運転」は、人となじみやすいという長所がある一方で、低速なので遠くに行けない。しかし、既存の交通手段とブレンドすることで、その潜在能力はぐんと引き出される。
現在の交通網からこぼれ落ちてしまっているのが、駅やバス停から最終目的地までの「ラストマイル」の移動である。だから、車を運転しない高齢者などの交通弱者が取り残される。
鉄道や大型の幹線バスでは覆えない部分、この大動脈から毛細血管へのつなぎを、ゆっくり自動運転でまかなってはどうか。つまり、場面ごとに利用者が一番使いやすい移動手段をブレンドする、その大切な構成要素のひとつとして使えばよいのだ。
いくらアイデアが素晴らしくても、それがビジネスにならなければ社会に定着しない。それが今後の大きな課題だ。