『「いつでも転職できる」を武器にする』の著書もあり、600社以上の人事の表とウラを知り尽くした人事・戦略コンサルタントの松本利明さんが「会社の辞め時」の見極め方を伝授します。
「できるところまで頑張ろう」では賞味期限が切れる
今やれることを、できるところまで頑張る姿勢は称賛に値しますが、転職を考えるにあたっては、ある意味、思考停止です。この先に確実な未来が待っていればいいのですが、なんとかなるという願望しかないなら危険。キャリアとしては自滅するリスクがあるからです。
具体的には、他社にいい条件で移れる、あなたのキャリアの「賞味期限」が切れてしまう可能性が高いでしょう。
たとえるなら、クビになるまで引退できないスポーツ選手と一緒です。自分ではまだやり残したこと、やれることがあると思うので、自ら引退できないのです。しかし、逆に年を重ね過ぎると、引退後のキャリアを考え監督の知識と経験を積もうにも、残された時間が短すぎて、間に合わない可能性が出てきます。

たとえば、中小企業で採用の仕事をしていて、人材育成や人事企画の知見を積もうと思ったら、それがメインでできる場所に移るのが賢明です。
少しだけ研修をかじらせてもらったりしているうちに時間が経ちます。5年以上、中小企業で人事をやると、「中小企業の人事」がブランドになります。「中小企業」が手持ちのエースのカードになるので、他の資質や経験と組み合わせても選択肢の幅は狭まります。
そうならないために、できるところまでではなく、キャリアを棚卸しするタイミングを決め、そこまでは今の仕事に集中するのが正解です。入社して〇年、30歳など勤続年数や年齢で区切るとわかりやすいです。
区切りをつけるメリットは2つ。
「あと〇年で△ができるようになるには、何をすればいいか」と考えれば、集中すべき対象や手段が決まるので目標の姿に近づきやすくなります。チャンスが訪れた時も、ゴールにどちらが近づきやすいか、チャンスをもとにゴールを柔軟に修正して違う未来を選ぶのがいいかが冷静に判断できます。
できるところまでだと今の延長上でしかイメージを持てないので、チャンスに悩んでも合理的に判断する軸が持てないのです。
区切りのタイミングで「もっとやれたかも」と未練は残るかもしれません。しかし、できるところまで、とずるずると続けてキャリアが詰んで後悔するよりましです。
しっかりと区切りをつけてキャリアを判断する小さな勇気を持ちましょう。