川村元気「人は、何を覚えているかより、何を忘れたかでできている」

認知症がテーマの新作小説に込めた思い
伊藤 達也 プロフィール

ひとりの切実な問題は、世界につながっている

――特に、「記憶」はすべての人に共通する普遍的なテーマですね。

川村:僕は人が何に心を動かされるか、ということにすごく興味があるんです。感動には、失ってしまうこと、忘れてしまうことが絶対に関わっている。だからこそ記憶というテーマはずっとあるし、ユニバーサルだし、メジャーだと思うんです。

実際に、この本については海外からの問い合わせがものすごく多いんです。どこの国でも、肉親が忘れてしまうという問題は切実だし、クラウドにまみれて何も忘れられなくて疲れて辛い人がたくさんいる。過去の恥ずかしいことや失敗がインターネットにずっと残るって、普通に考えて、生きづらいですよね。

自分ひとりにとっての切実な問題を掘っていったら、世界につながっていた、ということはあると思うんです。僕のデビュー小説の『世界から猫が消えたなら』は世界15ヵ国語で翻訳されていますが、イギリスやアメリカの読者と話しても、世界でも同じように感じている人がたくさんいると感じます。

『世界から猫が消えたなら』の英語版

――『君の名は。』も世界中でヒットして、いま、アメリカで実写版が製作されています。

川村:現在『スターウォーズ』の新作を監督している、J・J・エイブラムスと一緒に実写版を作っているのですが、映画の中で描かれる、日本人的な「MUSUBI(結び)」の概念、目に見えないつながりの感覚を、彼はもう100%理解しています。

自分の中のプライベートな感覚、狭い世界やドメスティックな話と思い込んでいるものでも、きちんと掘っていくとちゃんとユニバーサルになる。だから、自分が切実だと思う物語しか作りたくない、という気持ちがどんどん強まっています。

 

――さきほど、「最後に残った記憶が自分のコア」とおっしゃっていましたが、自分の個人的な感覚を掘っていった先にも、そのコアがあるように感じます。川村さんのコアも小説の中で描かれていますか?

川村:実は、小説のラストに描いています。自分を作り上げている大切なコアって、本当にすごく些細で、ダサかったり、醜かったりすると思うんです。でもだからこそ、それが力を持つと信じているんですけどね。国境を超えるくらい、普遍的な力を。