ISの拠点と化すマレーシア「捕まったテロリストの意外な顔ぶれ」

ミャンマーを追われたあの難民が
大塚 智彦 プロフィール

マレーシアが拠点になる背景

今回逮捕されたテロ容疑者4人は、2018年11月にセランゴール州のヒンズー寺院に駆けつけたマレーシア人のイスラム教徒消防士が暴行を受け12月に死亡した事案への「報復」が主な動機と自供している。

しかし警察ではテロの標的としてヒンズー教寺院以外の宗教施設やVIP要人、ミャンマー大使館などが含まれていることから、マレーシア社会の混乱を狙った爆弾テロだったとの見方を強めている。

マレーシアは元来のマレー民族が人口の約70%を占めるが、同時にヒンズー教徒が多いインド系住民が約7%、仏教徒やキリスト教徒の中国系が約23%と多民族・多文化のモザイク国家でもある。多種多様な人種、民族が混在するマレーシアにはインドネシアからも多くの労働者が出稼ぎに来ており、主に建設・土木業などに従事している。

また人道的見地から同じイスラム教徒のロヒンギャ族難民も受け入れており、マレーシアには約9万人のロヒンギャ族がUNHCRの難民として滞在しているというが、NPOなどによると全体では約20万人のロヒンギャ族が居住しているという数字もある。

ロヒンギャ族の難民の中にはミャンマーで国軍と戦う武装勢力「アラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)」と関係があったり、シンパシーを抱いていたりする者も含まれているとされている。事実、今回逮捕されたロヒンギャ族の20歳男性は、ARSA支持を供述しているという。

 

地理的要因からテロの温床に

インド洋から南シナ海に抜ける海上交通の要所マラッカ海峡を擁し、海上を経由した武器や麻薬の密輸ルートの存在がテロリストの流入にも好都合とされている。

事実、インドネシア・スマトラ島のマラッカ海峡沿岸部は麻薬密輸の主要ルートが複数あり、北部アチェ州沿岸はかつて独立を求める武装組織「自由アチェ軍(GAM)」への武器弾薬の主要流入のルートだった。

そのGAMはスウェーデンに「亡命政府」を構え、非公然組織の出先がマレーシアにあり、装備や資金の面で直接的な支援活動をしていたこともある。

このような地理的な条件に加えて、マレーシア国内には非公然活動を続ける海外のテロ組織や武装グループの出先やネットワークが複数存在することが以前から指摘されてきた。

2017年10月にはフィリピン人3人、マレーシア人4人にアルバニア人を加えた計8人がテロ容疑で逮捕されている。フィリピン人はフィリピンの「アブ・サヤフ」と関係があり、マレーシアの大学講師だったアルバニア人はISとの連絡要員だったという。

マレーシアでは過去にもこうした外国人がテロ容疑で摘発、逮捕される事案が起きており、そういう土壌が依然として続いていることを今回の逮捕劇は物語っているといえる。

マレーシアではイスラム原理主義を掲げる政党「全マレーシアイスラム党(PAS)」の存在も過激な原理主義を受け入れる素地を醸成しているとの指摘もあり、諸々の条件からマレーシアは東南アジアの「テロのデパート」「テロの温床」とも言われてきた。

そうした状況にISが目をつけてマレーシアに拠点を構築しようと画策している可能性を全く否定することはできないだろう。

今回の4人の逮捕はそれを強く示唆しているといえ、マレーシア治安当局はさらなる摘発強化と断食月が明ける6月5日前後まで厳重な警戒態勢でテロを封じ込めることに全力を挙げており、ISとの戦いはまだ続く。