Photo by iStock

銀座・赤坂・六本木ほか都心の「ポツンと一軒家」を訪ねてみた

こんなところに民家が、なぜ?

人里離れた場所にある一軒家を調べる番組が大人気だ。本誌は逆に、人があふれるビル街にある一軒家に注目した。なぜ、そこに住んでいるのか。どんな生活を送っているのか。じっくりと話を聞いた。

固定資産税が高い

日本有数のショッピング街、東京・銀座。有名百貨店や高級ブランドショップが立ち並び、国内外から観光客が集まっている。

その地価は、都内でも飛び抜けて高い。銀座4丁目に店を構える老舗楽器店「山野楽器」の公示価格(土地の売買価格の目安)は、過去最高の1平方メートルあたり5720万円。1坪換算では、なんと約1.9億円だ。

生活臭を感じさせない銀座は「ハレ」の場。だが、このビルの谷間に自宅を構え、暮らす人がいる。いわば、都心の「ポツンと一軒家」である。

アパレル店や飲食店が軒を連ねる銀座レンガ通りを歩いていると、古ぼけた木造2階建ての家が目に入る。土地の広さは約12坪。寺尾和子さん(仮名・69歳)は、ここで一人暮らしをしている。

「生まれも育ちも、ずっとこの家です。小学校は、地元の泰明小学校。長野から上京した父が、70年以上前に自宅兼印刷会社をここに建てたんです」

八丁堀にも工場を持つほど会社の経営は順調だった。女優・岡江久美子の父親も従業員として働いていたという。しかし、時代の流れとともに一家には難しい時期が訪れる。寺尾さんが続ける。

「印刷技術のデジタル化が進むと、その流れに乗り切れず会社は倒産。その後、銀行から3500万円も借りて、この家から少し離れた場所で喫茶店を始めたんです。

すでに閉店しましたが、私が店を継いで借金を返済するまで苦労しましたよ。いまはヘルパーとして働いています」

 

寺尾家は銀座一丁目駅の出口から約100m。近くにある駐車場は12分500円。まぎれもなく超がつくほどの一等地だ。

不動産業者から土地の売買を持ちかけられたりしなかったのか。

「とくにバブル期は地価が高騰して、再開発のブームもあった。それで、業者から良い条件を出された近所の人がどんどん出ていきました。実際、ここにも不動産屋は何度も来ましたし、姉弟間でも相当モメました。

この家は、亡くなった母に公正証書遺言を作らせて相続しています。銀座で暮らすというのは並大抵のことではありません。油断するとすぐに騙されてしまう。だから、私の愛読書は六法全書です」(寺尾さん)

周囲の住民が土地を手放す一方で、彼女がいまでも銀座に残り続けるのは「愛着があるから」だと話す。

「生まれ育った場所ですから、大好きです。通勤するにも交通の便がいいのでラク。『いまはどの土地が狙われているか』といった情報交換を地元の同級生とするのも面白いんですよ。

ただ、固定資産税や特別区民税など税金がかなり高いので暮らすのは大変。だから、愛犬を看取って日常生活に支障が出るようになったら老人ホームに入るつもりです。

そのときに家は売りますが、残ったおカネはすべて中央区の福祉関連に寄付しますよ」