オルタナ右翼を拡大させた「インターネット・ミーム」の不穏な存在感

私たちの「現実認識」に介入する
木澤 佐登志 プロフィール

だがこの無害なインターネット・ミームは、2015年頃からオルタナ右翼のシンボルとして扱われるようになる(ペペを古代エジプトにおける混沌の神と同一視する疑似宗教ケク・カルトについては拙著『ダークウェブ・アンダーグラウンド』で詳しく書いた)。

ツイッターにドナルド・トランプを模したペペのイラストが出回り、トランプはそれをRTしてみせた。そして、2016年の9月にはヒラリー陣営が公式ブログ上でカエルのペペとオルタナ右翼の繋がりを批判する文章を発表している。

「カエルのペペ」のイラストが描かれたトランプ支持者のボード〔PHOTO〕Gettyimages

これに対しても多くのメディアが反応し、ペペの知名度が一夜にして飛躍的に上昇した。なお、こうした事態を受けて、キャラクターの作者マット・ヒュリーは2017年に『Boy's Club』内でペペの葬儀を執り行うエピソードを描くに至っている。

結果的に、「deplorables」と「カエルのペペ」はオルタナ右翼ムーブメントに勝利をもたらした。ポリティコの記者Ben Schreckingerは「ミーム世界大戦(World War Meme)」という造語でもって大統領選挙を総括した。また、 ニューヨークマガジンのJesse Singalは「インターネットのトロールたちはどうやって2016年大統領選挙を勝利したか」という記事を書いている。

 

「OK」のハンドサインが書き換えられた

トロール(troll)という言葉の意味は多義的かつ曖昧だ。それは4chanや8chanにおけるアンチ・ポリティカル・コレクトネスを掲げ反社会的な振る舞いをする住人たち、またあるときは白人至上主義者やネオナチ、あるいはブライトバートのような極右メディア、さらにはマイロ・ヤノプルス(Milo Yiannopoulos)のようなオルタナ右翼系の論客を指して用いられることもある。

さしあたり、トロールは社会的な良識や常識(=ポリティカル・コレクトネス)を侵犯し、世論を壊乱させることを目的とする。「言論の自由」を利用して一般には受け入れがたいようなラディカルな言説を拡散させ、既存の価値観を転倒させること。

トロールが用いる戦略のひとつに、パブリックな言説や記号やイメージに介入し、その意味を改変してしまうというのがある。その際に、改変した言説/記号/イメージをミームとしてSNSやメディアを介して拡散させるのだ。

たとえば、「OKシンボル」と呼ばれるミームがある。これは、よく知られた親指と人差し指で輪っかを作るハンドサインで、通常はこれで「OK」を表す。ところが、オルタナ右翼たちはこのありふれたハンドサインを白人至上主義の符牒にしようという運動を始めたのだ。

きっかけは2017年2月、ホワイトハウスの記者会見室でオルタナ右翼の著名人がOKハンドサインとともに写真に写ったことだった。後日、進歩系メディアのメディア・マターズが、このOKハンドサインを「ヘイトのシンボル」であり「レイシストのペペのハンドシグナル」として報じた。

オルタナ右翼がOKハンドサインを一般に好むのは、OKハンドサインをしているカエルのペペのミームにあやかってのことであって、特別にヘイトのシンボルとしての意味付けがあるわけではなかった。

つまり、メディア・マターズの報道は単なる決めつけ以上のものではなかったのだが、しかし4chanのオルタナ右翼らはこの報道を面白がり、ならば本当にヘイトのシンボルにしてやろうではないか、と言い出した。これが彼らによる「オペレーション O-KKK」の始まりである。