オルタナ右翼を拡大させた「インターネット・ミーム」の不穏な存在感

私たちの「現実認識」に介入する
木澤 佐登志 プロフィール

しかし、この動画が撮影されたとされる90年代中頃といえばボスニア紛争の真っ只中で、民族間の対立と憎悪が激化していた時期にあたる。動画で演奏されている曲の本来のタイトルは「Karadzic, Lead Your Serbs」、当時のセルビア人勢力の政治指導者/最高司令官ラドヴァン・カラジッチを讃える唄だ。

「ボスニアの肉屋」と呼ばれたカラジッチはボスニア地域で多数の虐殺や民族浄化に関わった。とりわけ1995年に起きたスレブレニツァの虐殺では、ムスリム系のボシュニャク人推計8000人が殺害されたが、指導者のカラジッチはこの虐殺を指揮したとされる。

ラドヴァン・カラジッチ〔PHOTO〕Gettyimages

「狼たちがやってくる、覚悟しろウスタシャ(当時存在したクロアチアの政党)とトルコ人ども」といった歌詞を含むこの唄は、クロアチア人やムスリム系ボスニア人に対する憎悪、そしてセルビアへのナショナリズムが露骨なまでに表現されている。

2000年代に入りネットの海に浮上したこの過激な愛国歌はミームとして拡散される過程で「Remove Kebab(ケバブを排除せよ)」という、よりシンプルな(だが人種差別的な)タイトルに置き換わった。

曲の性質上、オルタナ右翼や白人至上主義者にも愛好され、彼らは率先してミームの生産と拡散に携わった。言ってみれば、「Remove Kebab」はオルタナ右翼にとってのアンチ・イスラムのスローガンのようになっていた。

クライストチャーチにおけるモスク銃撃の実行犯タラントもまた、マニフェスト「The Great Replacement」の中で、ムスリム系移民に対する憎悪を繰り返し表面していた。タラントはとりわけ白人の出生率の低下を問題にしており、その原因をムスリム系移民の増加に求めていた。

つまり、白人の出生率の低下を食い止めるためには移民を排除しなければならないという過激な民族主義思想がタラントの主張の根幹にある。

タラントがモスク銃撃に向かう車中で「Remove Kebab」を流していた背景には以上のような文脈があった。同マニフェスト文書の中で自身を「パートタイムで働くケバブ清掃員(kebab removalist)」と冗談交じりに自称するタラントは、ライブストリーミング中に「Remove Kebab」を流すことで視聴者たちに目配せをしてみせたのだ。

ミームに長けたインターネットの住人たちは即座にその曲に込められた「意味」を了解し、ほくそ笑みとともにある種の共犯意識をそこで共有したことだろう。

 

ミームはどうやって広がるか

タラントの犯行は各国の主流メディアにおいて、その事件の凄惨さだけでなく、ライブストリーミングやミームへの言及という観点からもセンセーショナルに報道された。

だが、それはある側面では犯人の思惑通りだったといえるかもしれない。タラントは自身のメッセージや動画をミームとして拡散させようとしていた。犯人のメッセージを拡散させているのは彼のイデオロギーに共感しているオルタナ右翼だけではない。ある意味では一部の主流メディアまでもが、仮に意図していなかったとしても、それに加担しているのだ。