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オルタナ右翼を拡大させた「インターネット・ミーム」の不穏な存在感

私たちの「現実認識」に介入する
オルタナ右翼や白人至上主義者たちは自分たちの思想を伝播・拡散するために、インターネット上の「ミーム」を使う。単なる「OK」を表すはずだったハンドサインはいつの間にか白人至上主義を暗示する記号に書き換えられ、カエルのキャラクターはオルタナ右翼の象徴に祭り上げられていた——。5月26日に新著『ニック・ランドと新反動主義 世界を覆う〈ダーク〉な思想』を上梓する木澤佐登志氏によるネットの暗闇を縫うレポート。

モスク銃撃事件のライブ動画に現れたミーム

ニュージーランド・クライストチャーチで今年の3月15日に起きたモスクの銃撃事件はまだ記憶に新しい。100人以上が死傷した凄惨極まりない今回の事件では、実行犯のオーストラリア人ブレントン・タラント容疑者(28)が殺戮の様子をライブストリーミングしていたという事実もメディアで多く取り上げられた。

タラント容疑者はフェイスブックでライブストリーミングを行い、動画はのちに削除されたものの、またたくまにネット上に拡散された。とりわけツイッターやユーチューブ等で繰り返し動画が拡散された他、中には各国の主要メディアまでもが動画の一部または静止画を掲載するケースも見られた。

犯人のタラントは、犯行の直前に英語圏の匿名掲示板8chanにおいてライブストリーミングの宣伝と、自身の極右思想をまとめたマニフェスト「The Great Replacement(大いなる交代)」へのリンクを貼っていた。加えて、自身のメッセージをミームを介して広めてほしい旨を掲示板の住人たちに呼びかけていた。

「皆の役目は僕のメッセージを広めることだ。君たちがいつもやっているように、ミームを作って糞書き込み(Shitposting)をしていってほしい」(8chanへのタラント容疑者の投稿より)

ミーム(Meme)とは、元は進化生物学者リチャード・ドーキンスが著書『利己的な遺伝子』(1976)の中で提唱した用語。遺伝学の観点から、文化における情報の伝播や自己複製の現象を説明するのがドーキンスの狙いだ。だが現在では、ミームといえばインターネット・ミーム、すなわちネットスラングやテンプレ(定型)のことを指すのが一般的になっている。

ミームは現在のインターネット文化を形作っている重要な要素だ。しかし一方で、ミームには政治的かつダークな面もある。過激な思想を持つオルタナ右翼や白人至上主義者が、自分たちの思想を伝播させるためにミームという形式を利用しているのだ。

 

車中で流れていた曲の不気味な出自

タラント容疑者は銃撃の動画の中でもミームを意識するような振る舞いをいくつかしていた。

たとえば、タラント容疑者がモスクへ向かう車中で流していた曲は「Remove Kebab」というセルビアの戦意高揚歌。ポルカと呼ばれる民族舞曲の一種だ。

この曲の引用元は、ネットでは一部でよく知られた動画である。その動画では、二人の軍人が険しい顔つきでポルカを演奏している様子を確認することができる。見た目とは裏腹の陽気な曲調からネット上で話題を呼び、2006年頃に動画が投稿されて以来数々の派生ミームとパロディを生み出してきた。