ひざ・腰が痛い→歩きたくない→認知症→死亡が増えています

長生きが怖い、というあなたへ
週刊現代 プロフィール

家族が寝たきりを作る

寝たきりとなれば、誤嚥性肺炎や褥瘡(床ずれ)からの感染症など合併症も増える。認知症発症者は、そうでない人に比べて2~3倍のスピードで老化が進み、4年後の死亡率は80%を超えるという調査結果もある。

なぜ歩かないと認知症が進行するのか。おくむらクリニック院長の奥村歩氏が解説する。

「歩くことは脳の前頭葉の働きと密接に関係しています。人間は『二足歩行』によって、手が使えるようになり道具を生み出したのと同時に、リズミカルな運動を手に入れました。

水前寺清子の『三百六十五歩のマーチ』のように『イチニ、イチニ』と歩く。このリズミカルな規則正しい運動が、情報処理を行う前頭葉、その中でも一番重要な前頭前野に好影響を与えるのです。結果、神経伝達物質のセロトニンを分泌させ、認知機能を高めているわけです」

 

机に座って考えていてもいいアイディアが思い浮かばないときに、ちょっと散歩をしたりすると、いい案が浮かんだりする。これは歩くことにより、脳が活性化されている証左である。

「よく『入院するとボケる』と言いますが、特に高齢者の場合、骨折して短期間入院するだけで、急激に認知機能が衰えることがあります。これは病院に閉じ込められるからではなく『歩行が制限される』からです。

退院してからも歩くようになれば、元に戻りますが、痛いからと自宅に閉じこもってしまえば寝たきり→認知症→死亡の確率が一気に高くなります」(奥村氏)

「自分の足で歩く」という行為は、運動機能だけでなく、視覚で空間をとらえる機能など複合した脳の働きを必要とする。そのため歩行速度の変化は認知機能の状態を表す指標になる。

アメリカのオレゴン健康科学大学が65歳以上の約200人を9年間追跡調査した結果、歩く速度が遅くなっていた人の多くに、軽度認知症が発見されたことも報告されている。

このように歩行と認知機能は強い相関関係にあるわけだが、ひざや腰が痛くて、歩かなくなるのは、本人の意思の問題だけだと考えるのは早計だ。周りの家族の存在も大きくかかわっている。

Photo by iStock

大宮保奈美さん(54歳・仮名)は、こんな後悔を口にする。

「姑の実家は農家で、普段から元気に自転車に乗って動き回る人でした。ところが、83歳のとき、転倒し骨折した際に、夫や舅から『言わんこっちゃない』『年寄りが無茶して』とひどく責められてしまったんです。

もちろん、本人も痛かったのでしょうが、それ以上に『家族に迷惑をかけてはいけない』と、以来ほとんど出歩かなくなってしまった。

だんだんと言葉数も減り、骨折から半年もしないうちに亡くなりました。医者は老衰と診断しましたが、完全に認知症でした。

長年連れ添った夫や実の子どもから『厄介者』扱いされたことは、さぞ屈辱だったに違いありません。それが認知症を誘発させたと思っています」

福島県立医科大学医学部・公衆衛生学講座教授の安村誠司氏が語る。

「寝たきりというと、なんとなく身体的、医学的な問題に見えますが、私は社会的な問題だと思っています。高齢者の閉じこもりの背景にあるのは、家族による高齢者の能力に対する『過小評価』です。

家族が本人の持っている能力を正当に評価せずに、過小に評価することを『エイジズム』=年齢差別と呼びますが、予防的に『足が痛いなら、危ないし、外に出ないほうがいいよ』と言うことが、本人たちの意欲を失わせ、実際の能力も下げてしまうのです」