なぜGDPで金融が過大視されるようになったのか

英米流「手数料資本主義」の正体
玉木 俊明 プロフィール

世界銀行は国際連合の独立機関であるが、IMFの加盟国でなければ、世界銀行に加盟することはできない。さらに、世界銀行の総裁は、アメリカ人が選出されることを原則とする慣例がある。このように、一見中立的に見える国際機関も、アメリカの強い影響下にある。IMFや世界銀行をうまくコントロールできれば、世界の金融市場はある程度管理できるようになったのである。

ワシントンにある世界銀行 photo by Getty Images

さらにアメリカは金本位制と固定相場制を採用し、圧倒的な金融力を誇るようになった。ニューヨークは、世界の金融の中心に位置した。そのため、国際貿易の決済から生じる多額の手数料収入が(残念ながら正確な額はわからないが)アメリカに流入した。1971年のニクソンショックでアメリカは金本位制を放棄した。さらに1973年には固定相場制が最終的に消滅した。しかし、現在もなお、アメリカは世界最大の金融大国である。

アメリカもまた、金融による手数料で莫大な収入を得る手数料資本主義の国家なのである。

タックスヘイブンという大英帝国の遺産

言い換えるなら、現代に直接つながる意味での手数料資本主義とは、アングロサクソンの二国によって形成されたのだ。

アメリカの工業はたしかに衰えた。しかし、金融業はなお世界一である。ニューヨークがなければ、世界の金融は成立しない。

イギリスには、現在、これといった製造業はない。たとえば、イギリスの主要な自動車会社は、ほとんどが外国企業の傘下に入っている。しかし、一説によれば、シティが金融の売り上げでイギリスのGDPの20〜30%、租税収入の約10%を占めるという推計もある(おそらくこれは、アッサ氏にいわせると過大評価になろう)。イギリスの資本主義が手数料資本主義だということから考えるなら、これこそ、イギリス人の得意分野である。

2013年の時点で、イギリスは世界第2位の直接投資国である。第1位は、いうまでもなくアメリカである。イギリスの直接投資額は1兆8850億ドルであり、アメリカの直接投資額は、6兆3500億ドルであり、イギリスは、アメリカのたった30%でしかない。

けれども、国民経済に占める比率の点では、イギリスの方が多い。シティは、ウォール街以上に、外国に開放されている。それはおそらく、イギリスが広大な植民地を有する帝国であったからだ。しかも、それは現代世界の金融と大きく結びついているのである。

読者は、タックスヘイヴンという言葉を耳にしたことがあろう。これは、一定の課税が著しく軽減、ないしは完全に免除される国や地域のことである。OECD租税委員会による世界のタックスヘイブンリストの35地域のうち、22がイギリスに関係しているのである。これこそ、大英帝国が世界中に植民地を持っていた遺産である。それを表す事例として、「イギリスはケイマン諸島などの地域を利用し、世界中の金持ちのために無税地域を創出している」という意見があることをあげれば、十分であろう。

タックスヘイヴンは、大英帝国の遺産がなければ出現しなかった。世界中の富裕層(全員ではなくおそらく一部であろうが)が、タックスヘイヴンを利用する。さらに、世界中の大企業がタックスヘイヴンに根拠地を置く(もちろん、現実にそうしている企業の数はわからないが)。

富裕層と多国籍企業が一番多い国はアメリカなのだから、アメリカ人とアメリカの企業がタックスヘイヴンの最大の利用者だと推測することは、十分理にかなっていよう。アメリカが形成した資本主義の特徴として、株主の利益を最大限に尊重するということがある。会社の所有者は株主である。にもかかわらず、従業員の待遇を良くするのが株主の責任だという発想は、新自由主義や株主資本主義には存在しない。しかも株主には、できるだけ税金を安くするという権利まで付与されるようになった。だからこそ、企業には、タックスヘイヴンを利用する必要があるという見方もできるであろう。

株主資本主義では、株価の上昇が不可欠であり、それは、金融部門の過大視をもたらしたとはいえないだろうか。GDPの金融化は、本来あるべき数値よりも、経済に対する金融の寄与度を高めることになった。

それは、歴史的には、イギリスとアメリカのアングロサクソン国家の手数料資本主義の産物である。GDPが本来あるべき額に訂正された時、手数料資本主義は終焉を迎えるのかもしれない。