心電図が平坦なモニターが待っていた

その選択が良かったのか、悪かったのかわからない。

母の携帯が鳴ったのは、翌早朝の3時すぎだった。母に促され、私が電話に出る。
「心拍が落ちています」
「急いだほうがいい、ということですよね?」
私、何を言っているんだ? 急いでいるからこの時間に電話がかかってくるんじゃないか。

電話があってから40分かかったか、かからなかったくらいだろう。病院に着き、父のいるフロアに行ったところ、ナースステーションの心電図モニターのアラームがピーピーと音を立てていた。思わずのぞきこむ。波形がフラット(平坦)になっているモニターが2つあり、そのひとつには父の名前が書かれたシールが貼られていた。間に合わなかったんだ、と察した。

看護師は私たちの姿を確認すると、「先生を呼んできますね」と言って去っていった。父の頬や腕に触れながら、医師の到着を待つ。まだ温かい。でももう死んでいるんだ。

しばらくして医師がやってきた。初めて見かける、若い女医だ。恐らく20代だろう。当直のバイトだろうか。モニターの状況からして、この日は、父のほかにもう一人、亡くなった人がいる。今日は災難だったね、先生。私がそんなことを考えている間に、心音、呼吸音の停止、瞳孔の拡大、対光反射の消失と、死亡確認は儀式のように進行していった。

最後に医師は、時計を確認し、「4時28分、死亡確認しました」と告げた。それはあくまでも死亡確認の時間であり、本当に父がこの世を去った時間は何時だったのかな、自宅に戻ることを決めたのは私たちだから仕方ないんだけど、ちょっと気になるな、なんて、とりとめもないことを考えた。しばらくすると、「処置を致しますので、ロビーに出ていてください」とやわらかな口調で言った。

ああ、エンゼルケアというヤツか。後日、明細を確認したところ、エンゼルケアの代金は(請求書の名目は「その他処置代」)浴衣込みで、1万3000円だった。当然ながら病院によって差があるようだ。死後の処置なので保険は適用外となる。

「プランに加え6万円かかります」

ロビーに腰をかけ、葬儀業者Aに電話をかける。見積もりを取った際の顧客番号を伝えたあと、亡くなった人、故人と私との関係、病院の名前、プランの確認をされた。ここで、思ってもみなかったことを告げられる。

「お住まいは東京23区ですよね。東京23区は特殊な地域で、公的な火葬場は2つしかありません。プランに含まれるのは公的な火葬場の料金でして、お客様の場合、民間の火葬場の利用となりますので、プランに加え、6万円の料金がかかります

え、マジで? 

東京23区内には9つの火葬場があるのだが、公的な火葬場は2つのみ。残り7つは民間の火葬場だ。民間の火葬料金は、5万9000円で統一されている。公的である瑞江葬儀所は6万1000円。むしろ民間より高い。もうひとつの臨海斎場は4万円だが、組織区住民(港区、品川区、目黒区、大田区、世田谷区)以外は8万円と、組織区住民ではない私の場合、近場の民間の火葬場にするのが、妥当な選択ということになる。