業者に「直葬」でお願いしたいと言うと、菩提寺の有無を聞かれた。

「では、まず菩提寺と相談したほうがいいと思います。相談なくお骨にして、菩提寺とトラブルになり、お墓に入れてもらえないというケースもあるので」

知らなかった。すぐに検索をかける。たしかに、引導を渡していないお骨は引き取れない等の宗教上の問題から、はたまたお布施がもらえないという金銭上の問題から、そういったトラブルが頻発しているようだ。さあどうしたものか。

とはいっても、年末年始に、地方からお寺さんを呼ぶのも、亡きがらを地方に運ぶのも現実的ではないと考えた。金銭的にも、物理的にも、だ。やはり「直葬」で、田舎にある先祖代々のお墓に納骨したい。戒名は菩提寺につけてもらおう。ネットで格安で戒名をつけてもらう方法もあるようだが、菩提寺につけてもらうのが、菩提寺に、また父に対する礼儀のような気もした。

さて、「直葬」を依頼するにあたり、いくつか見積もりを出してもらったが、ある大手葬儀業者(以降、葬儀業者Aとする)の直葬プランがダントツで安かった。寝台車(病院~安置場所、安置場所~火葬場)、ドライアイス、安置料金、枕飾り一式、納棺、お棺、仏衣一式、お棺用布団、役所・火葬場手続き代行、火葬、お別れ用花束、火葬料金、骨壷・骨箱、自宅飾り一式がセットで、税込で18万8000円。プラン代金は19万3000円だが、資料請求をした時点で、5000円割引になる。葬儀業者Bは、メールや電話等の対応がとても丁寧で、複数のプランを提示してくれ、好感を抱いたが、最安値でも25万円弱。葬儀業者Aの見積もりが圧倒的に安かった。

ただ、口コミ自体は、会社の規模がAよりも小さい、葬儀業者Bのようが良かった。いずれにしろ、実務は葬儀業者ではなく、下請けの葬儀社が行うことも理解した。その下請けの葬儀社が当たりか外れかによって葬儀の印象は大きく変わってくるというわけだ。

死ぬ死ぬ詐欺

医師に命が消えつつあることを宣告されてから2~3度、病院から、「状態が悪いです」「今日、という可能性もあります」と電話があった。その度にあわてて駆け付け、「やっぱり死ななかったね」と母と帰宅することが繰り返されていた。

「父が危篤」という状態にも慣れてきた12月27日、いよいよ危ないと、電話があり、「また死ぬ死ぬ詐欺かもね」なんて軽口を叩きながら、母と父の親友と病院に出かけた。私は年内最後の取材の予定があり、夕方、病院を後にしたのだが、すぐに母から電話がかかってきた。「いよいよ危ないって!」。

そうはいっても、直前すぎて仕事の代役も立てられない。取材が終わるとすぐに、私は病院に舞い戻った。状況は変わっていなかった。看護師は私の顔を見るなり、こう言った。「今、落ち着いたのですが、さきほどは非常に危険な状態でした」。6人部屋の病室に入ると、母は父のベッドの横に、所在なげに座っていた。

「腕も足もぷーっとふくれて、ドラマみたいに看護師さんやお医者さんが駆け込んできたのよ」

数日前までははあはあと苦しそうだったが、今は呼吸も穏やかだ。恐らく、悪い意味で。しばらく母と二人、父の手をさすったり、顔をのぞき込んだりしていたが、少しして母が言った。

「とりあえず帰ろう。お母さん、なんか疲れちゃった」

たしかにここにいても私たちにできることはない。「その瞬間」がいつ訪れるかもわからない。今日かもしれないし、明日かもしれない。もっと先かもしれない。看護師をつかまえ、「そろそろ失礼しようと思います」と伝えたところ、彼女は明らかに驚いた顔をしていた。

「……最期の瞬間に立ち会えなくてもよろしいですか」

多くの人はここで残ることを選択するのだろうか。しかし、すでに10日間「最期の瞬間」に翻弄されへとへとになっていた私と母は、自宅に戻ることを選んだ。