フランスの父親が育児に積極的なワケ〜男を「父にする」工夫の数々

かの国の「お父さん教育」に学ぶ
髙崎 順子 プロフィール

その後、医学的・心理学的見地から子の発達や認知の特徴を教え、「大人と異なる子どもの生態」を解説。月齢・年齢に合わせた実践的な育児動作や子どもとの関わり方、そこで発生しがちな親のストレスとそのコントロール法を伝授する。これまでの父親支援では存在しなかった、あたかも業務研修のような具体的・実利的な内容だ。

分かりやすさと確かな育児意識の向上効果で好評を博し、パリ市内でのスタートから5年で、全国6都市に支部を拡大。大病院の出産準備クラスにも取り入れられるようになった。

アトリエの創始者は、三人の子の父親で、保育士資格を持つジル・ヴォーキエ=ドラボームさん。開業のきっかけには、自身の苦い経験があったという。

「もともと僕は、育児に関心が薄い男でした。第一子が生まれたときも、頼まれたらやるけれど、育児のメインは母親という意識があった。昔ながらの鉄拳制裁的な父親に育てられたので、自分がどんな父親になったらいいか、うまくイメージできなかったこともあります」

ジルさん〔PHOTO〕著者撮影

そんな中、ジルさんの第二子に当たる長女が生後9ヶ月の時、階段から落ちて頭部に大怪我を負う事故に遭う。

「子の1ヶ月の入院中、自分は何をやっていたんだ、と忸怩たる思いで……それで、目が醒めたんです。ちゃんとした父親になりたい。自分の父親とは違う、日々子どもたちと触れ合い、しっかり守って愛していける父親に、と。そのためにまず、育児を勉強しようと思いました。なんの知識も実績もない夫を、妻がいきなり信用できるわけはないですからね」

 

「親になる方法」を学ぶ場

手始めに、家庭内事故防止の安全対策を独学。その中で触れたフランス人臨床心理療法士イザベル・フィリオーザの「ポジティブ育児論」に感銘を受け、保育士資格を取得した。発達心理学を取り入れながら独自の父親育児メソッドを構築し、子育てに手応えを感じていくうち、その知見を一人でも多くにシェアしたい、と考えるようになった。それも、できれば子どもが生まれる前の「父親予備軍」の男たちに。

『親』とは世界で一番難しい仕事の一つなのに、きちんと学ぶ場がありません。そして一度始まってしまったら、その難しさに圧倒されるうち、あっという間に時間が経ってしまう。知っていれば対応できた状況でミスをし、パートナーと無駄な衝突をし、子どもに不当な怒りをぶつけ……子育てという難しいミッションは、学習しないと間違った方向に行く可能性が高いんです。

そして後には後悔ばかりが残ってしまう。『私の時代にあなたのアトリエがあれば』と寂しそうに言う、思春期の子の父親たちを何人見てきたでしょう。僕は父親たちの心を後悔ではなく、いい思い出で満たしたい。もう誰にも、僕のような思いをして欲しくない。子やパートナーとの信頼関係を楽しめる、新しい父親を増やしたいんです」

その信頼関係は、子どもたちにもかけがえのない財産になる。親がポジティブに関わり続けた子は、健全な自立心が養われるという研究結果もあるそうだ。

ジルさんのアトリエ受講者は、現時点で約3000人に上る。

「未来のパパのアトリエ」の授業の様子〔PHOTO〕Atelier du Futur Papa、ジルさん提供

フランスの国策と方向性が一致していることもあり、その数は今後も増えていくだろう。子が生まれる前から準備をし、誰に強制されることも無く、「新しい父親」になっていく男性たちが。

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