懸念しておくべき米中貿易戦争が「本当の戦争」に発展する可能性

かつて日本もそうだったから

「諸刃の剣」

携帯電話などおよそ3000億ドル分の中国製品に最大25%の輸入関税を課す制裁関税の第4弾をトランプ米大統領が公表した5月13日(先週月曜日)を挟んで、中国の中央銀行である中国人民銀行は7日連続で人民元の取引基準値を元安・ドル高水準に切り下げた。

中国はその意図を明らかにしていないが、トランプ大統領は神経を尖らせており、ツイッターでFRB(アメリカ連邦準備理事会)に改めて利下げを求めた。報復関税の応酬を繰り返してきた米中貿易戦争に、自国製品の輸出を容易にする自国通貨切り下げ合戦が加わった格好だ。

事態は深刻だ。リーマンショック対応の経済刺激策の結果、金融・不動産セクターの不良債権が膨らみ、その処理が遅れてきた中国にとって、人民元の低め誘導は、資金・資産の国外流出や外貨不足を引き起こしかねない「もろ刃の剣」である。一方、中国が米国債売却に動けば、米財政も無傷ではすまない。

 

歴史に照らすと、日本が、これら2つの経済的圧力に加えて、鉄鋼や石油の禁輸を伴う経済封鎖「ABCD包囲網」に直面、太平洋戦争の戦端を開いた例もある。米中貿易戦争はこれ以上ないほど、危険な領域に踏み込んだと言わざるを得ない。

人民元は、昨年秋、トルコやアルゼンチンといった新興国が通貨不安に見舞われる中で1㌦=7元寸前の安値圏に突入した後、人民銀行による高め誘導もあり、昨年末から水準を回復。最近は、対ドル相場が1㌦=6.7元前後の高値圏で推移していた。中国人民銀行が5月8日に付けた売買基準値も1ドル=6.7596元と前日より0.0018元の元高・ドル安水準だった。

ところが、中国人民銀行は5月9日、為替政策を一変させた。人民元の基準値を1ドル=6.7665元と前日より0.0069元の元安・ドル高水準に切り下げたのだ。その前日、トランプ大統領が「中国が約束を破った」と述べて、それまで見合わせていた制裁関税の第3弾実施を宣言したばかりだった。

中国は管理変動相場制を採っており、毎朝、中国人民銀行が対ドル相場の基準値を公表、売買をこの基準値の上下2%以内で行うことを銀行に義務付けて、元相場をコントロールしている。

そして、先週を通じて、中国人民銀行は強硬だった。基準値を取引日ベースで7日連続引き下げ、5月17日に1ドル=6.8859元としたのだ。この基準値は、2018年12月下旬以来、4カ月半ぶりの元安水準である。

一方、トランプ米大統領は5月14日、ツイッターに、「国内企業支援のため、中国が利下げする」との見方を示したうえで、「FRBも同様に動けばゲームオーバーだ。我々は勝利する」と投稿した。利下げによって通貨安誘導合戦が激化すると見て、FRBに参戦を促した格好なのだ。

もう一つ、注目すべきなのは、中国が米国債の保有残高を減らしていることだ。米財務省によると、中国は3月に204億ドル(約2兆2千億円)を売り越し、保有額が2年ぶりの水準に低下した。

外為・金融市場では、中国の米国債減らしを米中貿易戦争における米国への報復措置の一環であり、今後も続くと見る向きが多い。

しかし、これは、中国にとってもろ刃の剣だ。なぜならば、中国の外貨準備が減り、米国債買い余力も徐々に低下しているリスクを改めて想起させる側面があるからだ。もともと、中国の経常収支の黒字はここ数年、減少傾向にある。IMF(国際通貨基金)が2020年代前半には中国の経常収支が赤字に転落すると試算しているほどなのだ。

中国の輸出競争力は米国の制裁関税が強化されるたびに低下、中国の外貨獲得力も弱体化する。いつ、中国からの資本流出懸念や中国の外貨不足懸念が再び台頭してもおかしくない。

米国も、制裁関税と同様、自国通貨安誘導合戦でも、打撃を回避するのは難しい。国債の消化難という事態に直面するリスクが高いからである。

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