火山学者が戦慄する「すでに富士山は噴火スタンバイ」という現実

南海トラフと富士山「令和の大噴火」
鎌田 浩毅 プロフィール

火山灰は東京に5センチメートルほども積もり、コンピュータや精密機器の小さな隙間にまで入り込んで、ライフラインのすべてを停止させる。航空機も墜落の危険があるため羽田も成田も閉鎖される。富士山周辺だけでなく首都圏全域で、あらゆる機能が麻痺してしまうのだ。

内閣府は富士山噴火を2兆5000億円規模の激甚災害になると予測しているが、この計算には含まれていない項目がある。

近年、研究が進んだ「山体崩壊」という破局的な現象で、山が変形するほど崩壊し、膨大な岩石や土砂が高速で流れ下る。もしもいま富士山で山体崩壊が起きたら、40万人が被災する可能性がある。

富士山噴火Photo by Getty Images

それでも強調したかったこと

「大地変動の時代」には、それに合わせた羅針盤が必要だ。その思いで東日本大震災以後の研究成果を取り入れ、前著を全面的に書き直したのが新刊の『富士山噴火と南海トラフ 海が揺さぶる陸のマグマ』(講談社ブルーバックス)である。

実は富士山は「噴火のデパート」ともいわれ、多様な噴火をして火山灰、溶岩流、噴石、火砕流、泥流など多様な噴出物を出す。本書の前半では、それぞれの危険性と、防災上の知識を解説した。

後半では、富士山がいまどのような状態にあるのか、なぜ南海トラフと富士山は連動するのかを解き明かし、最先端の噴火予知技術についても解説した。

 

プレートひしめく日本列島では「地面は揺れ、山は火を噴く」のを避けることはできない。それでも噴火の前兆をつかまえ安全に避難できるよう、火山学者は噴火予知の研究に日夜没頭している。

人知を超える自然をコントロールすることはできないが、災害を「科学」の力で軽減することは可能だからだ。

だが、私が本書でとくに強調したかったのは、それでも富士山は日本人の「心のふるさと」であり、多大な恩恵を与えてくれているということだ。

自然と人間の関係を「長尺の目」で見れば、災害は一瞬の出来事であり、恩恵を享ける時間のほうがはるかに長い。そこには「短い災い」と「長い恵み」という表裏一体の関係がある。両者をよく知ることが自然を「正しく恐れる」ことにつながるのだ。

その意味では、日本人必読の書ともいえるのではと自負している。

富士山噴火と南海トラフ