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コンピュータはゴーストライターになれるか?

なれる、でもクリアすべき条件が…
数年前、「AIが書いた小説が星新一賞の一次審査を通過した」という報道がなされた。

星新一賞は日本経済新聞社が主催する公募文学賞で、「人間以外(人工知能等)」からの応募も認められている。そして、第3回(2016年3月、結果発表)において一次審査を通過した作品のなかには、「人間が書いていない」ものがあったという。

短絡的な編集者Wは、「原稿が集まらない」という悩みからもうすぐ解放されるにちがいない、とバラ色の未来を思い描いた。ところが……どうもこの報道で取り上げられたAIは、われわれシロウトがもつイメージとは乖離があるようだ。

そもそも「AIが小説を書く」という表現には大きな問題があるらしい。報道の主役のひとりである自然言語処理研究者に、コンピュータによる文章生成の現状と課題を解説していただいた。

AIは作るものではない

私が主宰する研究室では、コンピュータ・プログラムを作って短編小説を制作するのが、毎年9月の恒例行事になりつつある。

なぜ9月かというと、日経「星新一賞」の応募締め切りが9月末(2018年は10月1日)に設定されているからである。

第3回(2015年)が最初の応募で、第5回、第6回とすでに3回の応募を数えている。第4回は研究室の学生が応募したので、研究室からの応募は第3回から途切れていない。

一般の方々からは、「小説を書くAIを作っているんですね?」と言われることが多い。個人的には、AI(artificial intelligence, 人工知能)は作るものではなく、研究分野だと思っているので、このような問いかけには「ハイ、そうです」とは答えたくない。

多くの場合、「文章を作るプログラムを作っているだけです」と答えるようにしている。

多くの人々が「AI」という言葉で想起するイメージは、「考えるコンピュータ、あるいは、賢いロボット」であろう。しかし、そもそもこの用語は、研究分野の名称として作られた用語である。

少し専門的に説明するならば、それは、「計算という概念とコンピュータという道具を用いて『知能』を研究する、計算機科学の一分野」となる。

より平易には、「これまで人間にしかできないと考えられてきた知的な処理を、どんなデータとどんな手順(アルゴリズム)を用意すれば、機械的に実現できるかを考える学問分野」である。

つまり、私たちがやっていることは、「どうすれば文章を機械的に作れるかを考え、それをコンピュータ・プログラムとして実現する」ことである。

文章を作るとはどういうことか

文章を作るということを、もうすこし分析的に考えるために、「目的」と「長さ」という2軸を設定してみよう。

文章には、必ず、なんらかの目的が存在する。典型的には「情報を伝えること」であるが、その対極には「(読み手の)心を動かすこと」が存在する。新聞記事は前者を目的とし、小説が目指すのは後者である。

一方、長さは、10文字程度(見出しやキャッチコピーなど)から、数百万字(10巻を超える長編小説)まで、多くのバリエーションがある。