フィンランド政府が2年間ベーシックインカム給付をして分かったこと

誰も働かなくなるのか、それとも…
山森 亮 プロフィール

「誰も働かなくなる」わけではなかった

雇用についての暫定結果をどのように評価すべきだろうか。

これまでにも実は類似の実験があちこちで行われてきた。1960年代の終わりから70年代にかけてアメリカ合州国やカナダ、今世紀に入って、ナミビア、ブラジル、インドなどである(現在行われているものとしてケニア)。

新しい社会政策の導入が検討される場合に、「社会実験」という形がとられることはあまりない。

にもかかわらずベーシックインカムを巡って、これだけ実験がくりかえされてきたのには、「何の条件も課さずに給付を行えば、誰も働かなくなるのではないか」という疑念が繰り返し表明されてきたからである。

 

この点に関して言えば、今回の実験結果は、ベーシックインカムによって人びとが働かなくなることはなさそうだ、ということになる。

前述の以前行われた社会実験のうち、アメリカ合衆国で行われたものは、ベーシックインカムの実験ではなく、(部分的な)負の所得税の実験であった。

負の所得税とは、シカゴ学派の経済学者ジョージ・スティーグラーやミルトン・フリードマンらによって提唱された考え方で、稼得所得が一定以下の場合は、税率を負とするという考え方である。

税率が正の場合には、個人または世帯から政府への所得の移転であるので、税率が負であるとは、税という名称ではあるが、政府から個人または世帯への給付となる。視覚化すると図4のようになる。

図4:負の所得税(出所:山森亮『ベーシックインカム入門』光文社)

負の所得税は通常生計を一にする世帯単位での給付が考えられており、前回紹介したように個人単位のベーシックインカムとは異なる。

また考え方の起源も思想的背景も異なる。ただこれらを度外視した上で、例えば定率所得税でベーシックインカムを組み合わせると、両者はかなり似たものとなる(図5。より詳しくは『ベーシックインカム入門』第5章参照)。

図5:負の所得税とベーシックインカム(出所:山森亮『ベーシックインカム入門』光文社)