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土壇場で「決裂」米中交渉にトランプも実は焦っている可能性

G20は日本にとっても難しい局面に

なぜ「決裂」だったのか、あらためて整理する

米中通商・貿易交渉は土壇場で決裂した――。

米中交渉ウォッチャーの間で取り沙汰されていたベースラインシナリオは、中国の劉鶴副首相が訪米(5月9~10日)、ロバート・ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表との最終協議で大筋合意をみて、習近平国家主席(共産党総書記)が6月上旬にもワシントンを公式訪問してドナルド・トランプ大統領との「署名サミット」に漕ぎ着けるというものだった。

米中交渉破談の理由は複合的な理由があるが、実は劉鶴氏訪米にさかのぼる1週間前にライトハイザーUSTR代表とスティーブン・ムニューシン財務長官が北京を訪れて(4月30~5月1日)劉副首相と協議した時点で今回の決裂の兆しが、すでにあったようだ。

まず、ライトハイザー氏の対中強硬姿勢に変化が見られなかったことである。それまで5ヵ月間の米中協議で、中国側は米側が強く求める構造改革について、(1)強制技術移転、(2)知的財産権保護、(3)農業、(4)サービス部門、(5)非関税障壁、(6)為替レートの6分野でほぼ全面的に受け入れて覚書(MOU)まで取り交わしていた。

 

「習近平一強」の中でも噴き出す不満

ところがライトハイザー氏は、中国側がその合意内容を検証・実施させる厳格な枠組み(いわゆる「執行メカニズム」)作りに本気で取り組んでいないと強く批判したのである。中国側はもちろん、さきの全人代(3月5~15日)で外商投資法と特許法改正案を成立させるなど構造改革を進めていると反発した。

だが同氏は「仏作って魂入れずだ。そんなもの意味がない」(注:直接的にこう表現したわけではないが、そのような趣旨の内容だったとされる)と、劉氏の反論に一顧だにしなかった。

報告を受けた習近平氏は激怒、ついにそれまでの対米融和路線から対処路線へ戦略的転換を決断したのだ。というよりも、転換を余儀なくされたのである。

「日本経済新聞」(5月16日付朝刊)で中沢克二編集委員は、中国側は今月初めに米中協議で積み上げた150頁の合意文書案を105頁に修正・縮小して米側に通告していたとすっぱ抜き、さらにその直前に開かれた共産党政治局常務委員会や政治局会議で貿易交渉合意署名は中国近代史・清王朝時代の英国や日本との「不平等条約」と同じであるとの批判が噴出した可能性を指摘している。

正鵠を射た指摘である。筆者もまた大型連休入り前に、経済産業省内ピカイチの中国ウォッチャーから、習主席は絶対権力を完全掌握したはずの共産党内から対米融和路線への、公然たる批判ではないものの、出始めた不満に直面していると聞かされていた。