「徹底抗戦か自己改革か」米中摩擦巡り中国国内で広がる大激論の中身

当局は政権批判への転換が最も怖い
古畑 康雄 プロフィール

米国が突きつけた中国の現実

さらに、微信で公開されたが、すぐに削除されてしまった文章がある。「米中貿易交渉でいったい米国は中国にどんな改革を求めているか」というもので、知人が画像を貼り付けていたので読むことができた。

「トランプが中国製品に25%の関税をかけると発表したことで、中国中央テレビを見るのが習慣の中国人は、米帝国主義は本当に我々をいじめようとしている、と感じているだろう。だが多くの中国人は、自分たちが見ているニュースは厳格な検閲を経たものであり、我々が見たいと思っても多くのニュースが見られないことに気づいていない。全世界の大部分の人々はツイッターにアクセスできるが、我々が見ることができるツイッターは検閲済みのものだ。」

「では米中貿易交渉で、米国はいったい中国にどのような改革を求めているのか?」として、文章は次のように列挙している。

1.中国に税制改革を要求し、間接税を直接税に変え、税率を引き下げ、中外企業に公平な競争の機会を与える。
2,国有企業の独占を放棄し、電力、通信、移動体通信、石油などの市場を開放、人々が高額な石油、電気、高速道路の料金を支払わずに済むようにし、市場競争を保障する。
3.政府の市場への干渉を減らし、各種の検査や審査、手数料を取り消す。
4.労務政策を改善し、賃金を引き上げ、独立した労組を認める。
5.報道とインターネットの自由を保障する。
6.知的所有権の保護システムを改善、外資に技術移転を強制せず、国際的な技術や知的所有権を盗まない。
7.私有財産と民営企業家を保護し、好き勝手に彼らの財産や人身の自由を奪わない。
8.国有企業や輸出企業への補助金を撤廃する。

そして「こうした条件は国辱的だろうか。もしそうでなければ、なぜ(中国は自ら)改革ができないのか。一体誰の利益を保護しているのか。頭を使って考えてみれば良い。だが中央テレビを見慣れている中国人は頭を使おうとせず、『米帝国主義を打倒しよう』などと叫ぶのが好きなのだろう。だが、最も打倒すべきなのは、我々に自由に外部の世界を見せようとしない高い壁なのだ」、と締めくくっている。

つまりは当局やメディアが「米国が中国に貿易戦争を仕掛け、我々をいじめようとしている」という宣伝に安易に乗ってはいけない、米側の提案(内容を1つ1つを確かめたわけではないが)は中国の一般国民にも実はメリットがあり、むしろ問題なのは我々と外界を隔てている様々な規制という高い壁だ、という指摘は確かにその通りで、当局がこのような言論を警戒するのは、無理はない。

 

本当は政権批判がもっとも怖い

当局が警戒するのは、対米政策上のハンドリングのまずさが政権批判へと結びつくことだろう。こうした状況について、米紙ニューヨーク・タイムズは8日、「米中貿易摩擦は習近平国家主席の指導能力を判断する真の機会だが、習の対応は芳しいものではなく、米中関係を上手にコントロールできないだけでなく、米国に無理な戦いを仕掛けた」と次のように論じた。

「中国は1949年の建国以降、毛沢東、鄧小平、江沢民、胡錦濤ら歴代指導者は米中関係の重要性を認識し、それを改善することで巨大な利益を得てきた。だが習は対米強硬路線を取り、反米的な言論が公式メディアで流され、台湾や南シナ海などで米国のアジアにおける軍事的プレゼンスに公然と挑戦を始めた。」

「中国はさらに他国の政治への浸透を図り、ハイテク技術を中国に移転させるネットワークを築いたことで、米国ではハト派までもが中国への見方を根本的に変えたが、習はこの変化に気づかず、トランプ大統領が発動した貿易戦争で対応が遅れた。」

そして習が米国に挑戦したのは、1950年代末に毛沢東が旧ソ連に対抗し、経済的に大損害を負ったように「あまりに猛烈で早すぎた」としている。

当局が声高に主戦論を打ち出し、批判的な声を封じ込めるのは、個人への権力集中や言論の封じ込めなど、習近平路線への不満が強い中、対米摩擦の原因が、習近平個人への批判につながることを、当局は警戒していると言えるだろう。

中国当局が天安門事件30周年で警戒を強めていることもあり、自由派、改革派の主張は当局の言論統制も受け、敏感な文章はすぐにも削除されるなど、発言の場を奪われているが、ネットに静かに広がるこうした声は、中国の世論が一枚岩ではないことを物語っている。対米関係を巡る熱い議論は、政権の正当性を巡る論争でもあると言えるだろう。

(本稿は筆者個人の見解であり、所属組織を代表するものではない)