かわいいアライグマの、ちょっと怖い話をしよう

ラスカルはかくして野に放たれた
安田 浩一 プロフィール

意味深な最終回

「同時に飼育できなくなって手放す人も増えてしまったんです」と話すのは前出・「地域環境計画」の宮畑氏。

実は、アライグマは飼育の難しい動物だとされる。

 

日々、アライグマと格闘している前出の駆除会社「AAAホームサービス」の丸山さんも、「私だったら無理。絶対に飼育できない」と断言する。

「生まれたばかりの頃ならばともかく、大人になったら暴れて手が付けられない。たとえケージの中に入れたとしても、餌をやるたびに、ひっかかれないかとびくびくしてしまいますよ。たぶん……一緒にいても楽しくないと思います」(丸山さん)

そうしたこともあり、当初は家族として受け入れたアライグマも、結局は飼い主の手に負えなくなり、近くの山林などに「逃がす」人が多くなったのだという。

そういえば、すでに忘れている方も少なくないとは思うが、「あらいぐまラスカル」の最終回も実は暗示的ではあった。

父親の事業が失敗し、転居の決まった少年はラスカルを森に返すことを決める。もちろん、最終回近くでは、生長してやんちゃになったラスカルの様子も描かれる。

小舟に乗って、少年はラスカルとともに森の奥深くへ向かう。お別れにサンドイッチを手渡し、少年はラスカルを森において、そっとその場を離れる。

くーーん、くーん。悲し気に鳴くラスカル。さようならラスカル!

私も泣いたが、現代の日本では外来法違反で書類送検は間違いなしだ。

「飼育は可能」という人も

そう、かくしてアライグマは野に放たれた。繁殖した。被害も増えた。そして、殺されていく。

考えてもみれば、人間の身勝手が生み出した現象でもある。

私たちが招き入れ、都合悪くなって手放したのだから。本来、アライグマに責任はない。彼ら彼女らは生きようとしているだけなのだ。

一方、本当にアライグマは人間の手に負えない動物なのか──疑問に感じている人もいる。

動物園「市原ぞうの国」(千葉県市原市)副園長の小竹隆氏だ。

同園では取材時、3匹のアライグマが展示されていた。

「かわいいものですよ」と小竹氏は目を細める。

小竹氏は前任地の「長崎バイオパーク」(長崎県)のときからずっとアライグマを見続けてきた。
「凶暴なアライグマが人の手で捨てられて増殖した、というストーリーを私は少しばかり疑っているんです。だって、ちゃんと飼育していれば人間にもなつきますよ。そりゃあ、成長すれば動きも大きくなるけれど、それは他の動物だって同じこと。少なくとも私は、アライグマがそれほど攻撃的な動物だとは思っていません

同園では名称通りに「ぞう」が一番人気だが、その次に人気を集めるのがアライグマだという。

「表情も動きも愛らしい。しっかり育てれば、ちゃんと言うことも聞きます。ただ一般家庭では、大きく育って動きも派手になると、それを凶暴だと思ってしまう人もいたかもしれません」

いま、同園では厄介者扱いのアライグマを積極的に受け入れようと考えている

「農産物被害などが深刻であることは理解しています。でも、いや、だからこそ、アライグマの本当の姿を動物園で見てもらいたい」

ちなみに私が取材で訪ねたときは、3匹ともにおとなしく寝ているだけだった。夜行性なので、昼間はじっと寝ていることが多いのだという。

捕獲されたアライグマ(photo by iStock)