かわいいアライグマの、ちょっと怖い話をしよう

ラスカルはかくして野に放たれた
安田 浩一 プロフィール

駆除はなぜ必要なのか

駆除にはもっぱら箱わなを使う。人間を恐れるので、網や素手で捕獲することは難しいのだ。

「箱わなにおびき寄せるための餌としては、甘くて油分が多いものがいい。いろいろと試行錯誤を重ねましたが、キャラメルコーンや餡ドーナツなどが効果的でした」(丸山氏)

 

捕獲したアライグマはアルミケースの中に収めて、炭酸ガスをゆっくり注入して安楽死させる。これだと眠りながら死んでいく感じになるのだとか。

息を引き取った個体は冷凍保存してから回収業者に引き渡す。

「年に一度は供養の儀式もおこなっています。害獣とはいえ、アライグマ自身に罪はないのですからね」(丸山氏)

確かにアライグマにとっては不幸なことに違いない。だが、放置すれば農産物も家屋も被害にあう。なかには狂犬病を持っているアライグマもいるため、人体への直接被害も懸念される。

それだけではない。

「なごや生物多様性センター」(名古屋市)で生物多様性の保全担当をしている髙尾知基氏は「生態系維持のためにもアライグマ対策は必要」だと強調する。

希少な生物がアライグマの被害にあっているのです。このままでは地域の生物環境が大きく変化してしまいます」(髙尾氏)

愛知県内でも、最近では名古屋市の繁華街にも出没するようになった。生息域が拡大する過程で、公園の池や沼地にすむ在来動物にも被害が及んでいる。

「首を食いちぎられたカスミサンショウウオや腕を引きちぎられたニホンイシガメなどの希少生物が発見されています。いずれもアライグマの仕業だと考えられます」(髙尾氏)

だからこそ駆除したうえでの殺処分もやむを得ない

「もちろん、個人的にはかわいそうにも思います。見た目もかわいいですし。だからこそ、少しでも不幸な犠牲を減らしたい。当センターでは、殺処分されたアライグマを解剖し、生息実態の研究を進めています。命を無駄にしないように、少しでも役立てていきたいと考えています」(髙尾氏)

なごや生物多様性センターにあるアライグマの剥製

ラスカルの功罪

ところで──素朴な疑問だ。

なぜ、日本にいるはずのないアライグマが生息しているのだろう

環境省の資料などによると、野生のアライグマが国内で最初に発見されたのは、1962年のことだった。愛知県犬山市にある動物飼育施設で飼育されていたアライグマ12匹が檻から逃走したのだという。

では、この12匹が"アライグマ算"で増えていったのか。

どうやらそうでもないらしい。

急増の最大の要因だと関係者の誰もが口にするのは、あの有名アニメである。

「あらいぐまラスカル」──1977年にフジテレビ系列で放映されたテレビアニメは、当時、大ブームを引き起こした。

11歳の少年が、森の中で幼いアライグマのラスカルと出会う。人懐っこいラスカルと少年の友情物語。原案は米国の作家スターリング・ノースの自伝的小説である。

クークーとかわいらしい鳴き声をあげながら少年にまとわりつくラスカルの姿は、全国の少年少女、いや、おとなたちの琴線を激しく揺さぶった。

ラスカルが欲しい! 

多くの人がそう思ったことであろう。私もそうだった。

賃貸の団地住まいだった私は犬を飼うことができなかったので、ラスカルの一匹や二匹くらい、一緒に暮らしてもよいと思った。友達が少なかったので、子分のようにラスカルを連れまわしてみたかった。

私は願望だけだったが、実際にペットとして飼う人が続出したのである。そのころはまだ、外来生物法などの法律は整備されていない。国内にアライグマはいなかったので、ペット業者は米国から仕入れ、それが飛ぶように売れた。

だが──。