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いま「くじ引き民主主義」がヨーロッパで流行中、その社会的背景

「民主主義疲れ症候群」への処方箋
いまヨーロッパでは、抽選によって議員を選ぶ「くじ引き民主主義」が注目を集めている。すでに抽選による選出が行われている例もあるというが、なぜいま「くじ引き」なのか。そもそもくじ引きと民主主義は両立するのか。ヨーロッパ政治に詳しい北海道大学教授の吉田徹さんが解説します。

マクロンが提案した「抽選制」

昨年末から半年以上に亘ってフランス各地で続く黄色いベスト運動を受け、マクロン大統領は4月25日に2時間近くに及ぶ記者会見で、幾つかの改革案を提案した。内容は、選挙制度改革や議員定数の削減、地方分権推進など多岐に渡った。

その中に、少々意外な提案があったことをご存知だろうか。それは、環境問題を討議する新たな評議会の代表や、法案の諮問機関である「経済社会環境評議会」の議員の一部を、市民からの「抽選制」によって選ぶというものである。

繰り返そう。議員を抽選制で選ぶのだ。

日本人の目からすると意外な試みに見えるかもしれないが、このように、一般市民を抽選で選び、国家や地域の特定の課題について討議・決定をしてもらうという手法は、ヨーロッパ諸国ではすでに珍しいものではなくなっている。

 

憲法改正を討議するためにアイスランドが2010年に市民1000人を抽選で選んだ事例や、やはり憲法事案についての意見を集めるためにアイルランドが2012年に66名の市民を抽選している。最近では、ベルギーが、国の政策について意見を具申する市民から抽選した委員による審議会を2019年中に設置する発表された。

すなわち、国や地域といった共同体に関わることも、プロ=政治家ではなく、アマチュア=一般市民が公平に決めるべきという流れが出てきているのだ。

抽選ということは、選挙ではなく「くじ引き」で選ばれるということだ。なぜ、今になって政治的な決定をくじ引きで決めるトレンドが各国で出てきているのか、そもそもくじ引きなんて原始的な方法で民主主義に反するものなんじゃないか――。

こうした疑問に答え、「くじ引き民主主義」がトレンドになった具体的な理由と系譜を説明しているのが、最近邦訳されたダーヴィッド・ヴァン・レイブルック『選挙制を疑う』(岡崎晴輝・ディミトリ・ヴァンオーヴェルベーク訳、法政大学出版局)だ。

欧米でのポピュリズムの台頭は、実際は議会制民主主義が機能を起こしているからだ。政治家や政党不信は、各意識調査をみても、かつてないほどの水準にあり、他方で投票率は下落傾向にある。「お任せ民主主義」と「政治的無関心」が支配しているのは、実は日本だけではないのだ。

ここから既成政党はかつてのような安定と勢いを失い、政治・経済・文化エリートを非難するポピュリストが台頭することになる。分かりやすくいえば、トランプやブレグジットは、ポピュリズムが席捲した結果と考えるより、既存の議会制民主主義が機能不全を起こしていることの結果と考えたほうがより深く理解できるのである。

こうして、これまでの民主主義はますます失望と熱狂の狭間――ヴァン・レイブルックは「民主主義疲れ症候群」と呼ぶ――に追いやられるようになっている。

そして「民主主義疲れ」に対する処方箋こそ、市民や有権者自らが政策形成や意見具申に積極的に関るきっかけを作る、くじ引き民主主義ということになる。