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重度アルツハイマー病の人はどのように言葉をとりもどしたか

介護のベテランはこう関わった

認知症の症状の中には「失語」というものがあります。次第に言葉を忘れ、上手に話せなくなってしまいます。そんな人にいったいどう関わればいいのか。認知症の専門相談員である著者はこうしたそうです。

重度のアルツハイマー病だったトモキさん

今も私の心に残っている認知症の人との出会いがあります。もう10年以上前、ある老人保健施設(老健)で担当させていただいたトモキさん(73歳)です。その老健には、10日ばかり研修でお世話になっただけですが、私には忘れられない時間となりました。

トモキさんは、私が出会った時点ですでに「重度のアルツハイマー病」と診断されていました。言うことをきかなかったり、怒り出したりするので、老健の職員は手を焼いているとのこと。背は高くスマートで、一見男前でしたが、頭はフケだらけで無精ひげ。爪の間は真っ黒で、何日もお風呂に入ってないことが一目でわかりました。

認知症の人は風呂嫌いになる傾向が強く、私は「万年不潔症候群」と呼んでいますが、まさにその状態です。

【写真】認知症の人は風呂嫌いの傾向が強い
  フケに無精ひげ、真っ黒な爪の間。認知症の人は風呂嫌いになる傾向が強い photo by gettyimages

ただ、排泄はひとりでできるようでした。きちんと拭けているかどうかは不明でしたが、臭いがしないところをみると、さしあたりOKということでしょう。

私は何となくトモキさんに関心が湧き、せっかく研修に来たのだから、ということで、申し出て担当させてもらうことにしました。

生育歴を知るため、施設にお願いして個人ファイルを見せてもらいましたが、記されていたのは5〜6行の簡単な情報のみ。もとの職業すらわかりません。人ひとり預かるのに、たったこれだけの情報で済ませるとは……。驚いてしまいましたが、ともかくこんな“ゼロ状態”から、トモキさんのケアはスタートしました。