支援歴26年のプロが見出した、認知症「本当の特効薬」

介護をパッとラクにする方法、教えます
右馬埜 節子 プロフィール

笑いには、日常の凸凹を地ならしするパワーがある

お年寄りを笑わせるといっても、何か新しいことを考えなければならない、というわけではありません。ネタは意外と、日常のなかに転がっているものです。たとえばこんなことがありました。

肩に激痛が走ったので医者にかかったところ、「肩に石灰がたまっています」と言われたことがありました。細かい病名は省きますが、「石灰って……石!?」と仰天したのをよく覚えています。それが、ある日、私が勤めていた介護事業所で役に立ちました。

事業所では「朝礼」と称して毎朝、利用者・職員で挨拶をしますが、全員が揃うまではお茶を飲んだり雑談したり、あるいは塗り絵をしてみたりと、各自が好きなことをしています。

そんなときノブオさん(80歳)の隣に座って、この"石灰話"をネタにしてみたのです。私が言います。

「肩が痛いので医者に行ったら石がたまってたの。お金はたまらないのにねえ」

するとノブオさん。

「石? 俺もためてるよ。腎臓に」

それを聞いていたマサコさん(79歳)が、「それ、面白~い! 今度使おう!」と思わずツッコミ。こうしてみんなで大笑いしました。

とくに笑える話がないときには面白話をこしらえるのもいいと思います。たとえば、

「大食い競争でうどん30杯たべて優勝したけど、もらった商品が『うどんのタダ券1年分』だった」

という冗談はなぜか認知症の人によくウケるので、私は講演で紹介することもあります。とにかく、誰でもウソだとわかるくらい大げさな話にするのがポイント。他にも、

「私、昔はミス東京だったの。でも今はミスばかりする人」

とおどけてみる、といった具合に使うと、雰囲気が緩みます。

単語レベルのちょっとした工夫がお年寄りの反応を引き出し、場が明るくなることもあります。たとえば、利用者から「結婚したい」などと言われたときに、「デパートへ……」と返す方法はもう紹介しましたが、あるとき私が、

「"銀座"のデパートへ行こう!」

と言ったところ、

「銀座じゃ、高いよ」

と、デイのお年寄りがツッコミを入れてくれて、思いがけず大笑いになったことがありました。

「認知症なのに、そんなに上手に反応できるの!?」と驚かれるかもしれませんが、平和で明るい雰囲気のなかでは、認知症の人も「できること」が増えるのです。

こんなこともありました。

「オレは病気知らずなんだ」と吹聴するゴロウさん。年齢を聞いてもいないのに、「今年で87歳」と自慢します。しかし10分後には、「オレは85歳」と言ったりもします。2~3歳違っていることが多いのですが、他の仲間や職員はみんな、

「ゴロウさんは若返る薬もってるね」
「明日が誕生日だったかな」

と大笑い。みなさんはこんな様子を、"病気の人をあざ笑っている"ととらえるでしょうか? そうではないと思います。

  • ちょっとしたトラブル
  • 少しうまくいかないこと
  • ギクシャクしていること

笑顔には、そんな細かな日常の凸凹を一気に地ならししてくれる、独特なパワーがあります。自分が病気であることさえ、一瞬忘れさせてくれるのです。私が笑いにこだわるのは、そんな理由からです。

些細な失敗にとらわれず、当事者も家族も、そしてご近所さんや介護職員も、みんなが笑って暮らせる……私の提案した言葉かけの技術が、そんな関係づくりに少しでも役に立てばいいなと、そう願ってやみません。

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認知症の人が「スッと落ち着く」接し方、お教えします——ベテラン相談員の「明るい話術」はこちら

【イラスト】笑顔には独特なパワーがある
  笑顔には独特なパワーがある(『認知症の人がパッと笑顔になる言葉かけ』より)

※この記事は『認知症の人がパッと笑顔になる言葉かけ』をもとに作成しました。

【書影】認知症の人がパッと笑顔になる言葉かけ

認知症の人がパッと笑顔になる言葉かけ

右馬埜 節子

本書では、ほんの少しの言葉かけで、そんな「ネガティブ気分」を晴らす方法を紹介。本人の毎日も、介護者の心も、パッと明るくなるケアの技術を教えます!ご紹介したように、マンガも多く、抱腹絶倒のうちに、明るい介護が学べます!